『論理的美術鑑賞 人物×背景×時代でどんな絵画でも読み解ける』2020/5/20
堀越 啓 (著)

 論理的美術鑑賞のやり方を通して、「ビジネスに役立つ美意識の磨き方」を教えてくれる本です。
 えーと……私自身は、美術館などで絵や彫刻を見るとき、ほぼ「好き嫌い」の判断基準だけで見ています。そして正直に言うと、それでいいのだと思っています。だからこの本の『論理的美術鑑賞』というタイトルには、(そう見方って、結局は「自分の感性」を「作品の背景」とかの知識フィルターで曇らせる弊害があるんじゃないかなー)と少し反発を感じてしまう気持ちがありました。
 それでも実際に読んでみた感じでは、結構役に立つかも、という印象を持ちました。自分の美術鑑賞方法に不安を感じる方は、この鑑賞方法を試すことで自分なりの作品の見方を育てることが出来ると思いますし、私のように「自分の鑑賞方法を他人に指南してもらうなんて、それこそ邪道」と考えている人にとっても、自分の鑑賞方法を再点検して見直す(新しいヒントを得る、または今まで通りでいいのだと再確認する)ことが出来ると思います。
 というのもこの本は、美術鑑賞の方法というより、「ビジネスに役立つ美意識(芸術評価方法)の磨き方」が真のテーマ(裏テーマ)ではないかと感じたからです。
 実は最近、この本にも書かれている次の理由から、ビジネス世界でもアートへの関心が高まっているのです。
「不確実性が高い予測不能な世界では、知識のみの頭でっかちな思考では限界があることから、美術鑑賞によって感性や美意識を高めていくことで、VUCA(変動・不確実・複雑・曖昧)ワールドをサバイブできると考えられている。」
 この本では、「美術鑑賞」の方法を学びながら、「何かを考える(鑑賞する)ための総合力を磨く」道筋を教えてくれているように思いました。そしてその道筋は、次のような「ビジネスマンの自己啓発」的なステップアップ方式になっているのです(笑)。
「基本の「3P(時代・人・場所)」を整理して作品をざっくり理解する」
→「「作品鑑賞チェックシート」でありのままに作品を捉える」
→「アーティストが生きた軌跡をたどる「ストーリー分析」」
→「「3K」で美術業界の構造を把握する」
→「「A-PEST」でアートヒストリーを時代背景から理解する」

 ステップアップするごとに作品を多角的に眺め、作品の背景を広く理解していく、そうすることで作品を深く味わうことができる、という鑑賞法のようです。……なるほど、確かに『論理的美術鑑賞』ですね。
 しかも、すごく実践的に分かりやすく教えてくれます。例えば「作品鑑賞チェックシート」では、「作品鑑賞チェックシート」の書き方説明だけでなく、ゴッホの『夜のカフェテラス』と、マネの『オランピア』の2作品(両方とも冒頭にカラー写真で掲載されています)を例に、実際に堀越さんが見たこと・感じたことを記入したチェックシートを事例として見せてくれます。
 個人的には、「美術鑑賞」は「好き嫌い」だけで十分だとは思いますが、考えてみれば私自身も、美術の技法や歴史を本で学んだり、実際に自分で描いてみたり、美術館などで展覧会を鑑賞したりして、自己流で鑑賞術を培ってきたように思います。もっとも、この本で教えてくれたような論理的で系統だった方法ではありませんでしたが……。
 ということで、意外にも(?)実際に役に立つ『論理的美術鑑賞』法だったように感じました。が、なんだかビジネス現場でのマーケティング手法に似ている感じで、「美意識」の方はともかく、これで本当に「感性」まで磨くことが出来るのかなーという疑問も感じてしまいました(汗)。
 私自身は、美術作品を見るとき、作品の歴史的背景や作家の生き方よりも、作品の技術的な側面(使われている技法や画材)が気になる方で、「作品鑑賞チェックシート」には、それも盛り込まれるべきではなかったのかな、と思います。
 それと……この『論理的美術鑑賞』法は、残念ながら、あんまり楽しそうではないような……あまりにも「意識高い系のビジネスマンの方向きの鑑賞法」過ぎるような気がしてしまいました。
 ということで、最後に、私なりの「美術鑑賞を楽しむ方法」を紹介させていただきます。それは、見た中で「一番好きな作品」を選ぼうと思いながら鑑賞すること。これを続けていくと、自分の中で基準となる「好き嫌い」がはっきりしていきますし、美術にも興味がわいてきて、「自分の好きな作品」の背景を調べることをきっかけに、楽しく美術の歴史や技法を学ぶことが出来るようになると思います。
 それと、「買うとしたら、どの作品を選ぶか」を考えながら見るのも楽しいです。意外なことに、「買いたい作品」と「好きな作品」は必ずしも一致はしないのです。なぜなら「買いたい作品」には、「好き」という属性だけでなく、「作品の大きさ」「自分の部屋に合うかどうかの色合い」などの「インテリア」属性も重要になってくるから。ちなみに私の場合は、「買いたい」作品は、テーマがポジティブなもので、色合いが美しいものが多くなる傾向があります。嬉しいことに(?)美術館の作品には価格が書いていないので、価格に左右されずに自由に選ぶことができます。しかも通常、美術品の価格は物凄く高額なはずなので、「買う」気分で選ぶと、なんだか豊かになった気分にも浸れます(笑)。
 また「ダメ出し」をする、という方法もあります(笑)。「この作品は、あんまり良くないな」と感じることがあったら、「自分だったら、どう描くか(どう修正するか)」を考えてみるのです。これは上級者向けかもしれませんが、「(勝手に)巨匠越え」気分を味わえるので、見に行った展覧会で「好きな作品」を一つも見つけられなかったという残念な時には、これをやってみると、「美的トレーニングが出来て有意義な時間を過ごせた」というポジティブな気分になれます(笑)。……以上、「論理的ではない美術鑑賞」の方法でした。よかったら参考にしてみてください。
 えーと……ということで、『論理的美術鑑賞』の方法を具体的に学べる本でした。興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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