『新・宇宙戦争 ミサイル迎撃から人工衛星攻撃まで (PHP新書)』2024/1/16
長島 純 (著)

「将来軍事大国間で戦争が起こるなら、最初の一撃は宇宙空間かサイバー空間で起こる」……GPSが停止すればインターネットや携帯電話などの通信ネットワークは正常に作動しなくなり、証券取引所のシステムや電力発電網も制御できなくなる……元自衛隊空将の長島さんが、戦争の今と未来を解説、中国、ロシア、米国、EU、日本の宇宙戦略を読み解いている本で、2049を超えた未来をSF的に予想するSFプロトタイピングの試みや、「【特別対談】奥山真司×長島純――総力戦を加速させる未来の戦争」も収録されています。
「序章 宇宙と未来」には次のように書いてありました。
・「軍事面でも、宇宙関連システムに対しては、物理的な破壊を行う衛星攻撃兵器(ASAT)などのキネティックな脅威(動的・運動的脅威)に加えて、サイバー攻撃やレーザー妨害など、ノンキネティックな脅威も顕在化していて、宇宙システムの脆弱性の増大に対して一刻も早い対処が求められています。」
・「将来的に、衛星コンステレーション(satellite constellation:小型化、多数化した衛星が星団化した状態。コンステレーションは星座の意味)によって、宇宙を経由するデータ通信量が増大及び高速化することで、衛星利用の飛躍的増大が予想されています。特に、低軌道上では新規宇宙ビジネス参入に伴って新たな低価格の小型衛星のコンステレーションが増えることは間違いなく、宇宙の「混雑化」は今後さらに深刻化していくでしょう。」
   *
 近年は、物理的な攻撃(陸海空の軍事力)とサイバー攻撃、欺瞞、妨害行為、偽情報の流布などの非物理的攻撃を組み合わせたハイブリッド戦争への関心が高まっているそうです。実際にロシアは、ジョージア紛争(2008年)やクリミア併合(2014年)で、政府機関へのサイバー攻撃で国内を不安定にさせたなかで、戦車や軍用機による電撃的攻撃などを行っています。もちろん現在のウクライナ侵攻でも……。
 また次のような「メタマゲドン」という新しい戦争も予想されているそうです。
「(前略)宇宙やサイバー空間の重要性が増大する結果として、デジタルツイン(サイバー空間内に現実空間の環境を再現すること)となった仮想・現実空間で戦争が行われ、メタマゲドン――メタバース空間から現実世界へとシームレスに波及する究極の戦争が生じる可能性までも視野に入ってきました。」
 ……メタバースが普及すると、そこでも戦争が起こる可能性がある……なんかゲームみたいな感じですが、人間が支配する空間では、どこでも「勢力争い→戦争」が発生してしまうのかもしれません。メタバースが本格化する前に、その対策についても検討しておかなくては……本書でも次のように書いてありました。
「(前略)メタバースが依拠するサイバー空間の脆弱性を掌握し、速やかな被害復旧、原状復帰を図るためのレジリエンス能力を蓄えておくことが攻防のポイントになります。」
 ……でもメタマゲドンや宇宙戦争なんて、まだまだ先のことだよなー、なんてのんびり構えていたら、なんとすでに宇宙戦争っぽい事態は起こっていたのでした。「直接上昇型ミサイルによる衛星攻撃(DA-ASAT)」の事例として、中国が運用停止した気象衛星・風雲1号Cを中距離弾道ミサイルで破壊(2007年)したことや、ロシアのDA-ASAT実験(2021年)などが紹介されていました。どちらも低軌道上に大量のスペースデブリを生じさせ、各国から非難されたようです……宇宙戦争、すでに現実なんだ……。
 また極超音速兵器なんてものも……
「極超音速兵器は、近宇宙と言われる低軌道の直下、もしくはその軌道の一部にとどまった後に、速やかに降下を始め、グライダーのような飛翔経路を通る極超音速滑空体(HGV)と、ダクテッドロケットエンジンを使って低空を直進する極超音速巡航ミサイル(HCM)から成ります。」
……ロシアの極超音速兵器「アヴァンガルド」などが、すでにあるようです。怖っ!
 そして「第四章 日本は何をなすべきか」には、次のように書いてありました。
・「日本政府も現在、衛星コンステレーションや情報収集衛星などによる情報収集、安全保障用通信衛星の多様化、衛星測位機能の強化などを図ることで宇宙システムから得られる脅威情報(データ)をより効率的に活用しようとしています。」
・「(前略)デュアルユース技術による半導体や高性能部品に対して、多国間の連携体制を維持しておくことは、長期的な作戦能力を保証する上でも重要なことです。そのため、宇宙能力を通じた技術協力やサプライチェーン構築が、先進技術全体に波及するような包括的な協力体制に結びついていくよう努力すべきです。」
 ※デュアルユース技術=軍事にも応用できる先進的民間技術
・「日本は先進的な両用(デュアルユース)技術を積極的に取り込み、産学官の連携、協力の下で、宇宙システムの脆弱性を排除し、独自の宇宙能力を向上させることを通じて、攻撃に対する抗堪性(レジリエンス)を獲得することが、直接的な拒否的抑止につながります。」
・「(前略)自国の努力に加え、同盟国、パートナー国との協力を積極的に促進し、効果的な宇宙の抑止態勢を構築することこそ、宇宙防衛戦略の中核となるべきです。」
   *
 また「終わりに」では……
「通常の戦争や紛争と異なり、宇宙システムへの攻撃・妨害やサイバー攻撃は、時間や距離という物理的制約を超えて、我々の日常に深刻な影響を、前触れもなく、直接的に及ぼします。特に、情報通信、金融、空港、鉄道、電力、ガス、水道などの重要インフラに係る制御系へのサイバー攻撃は、経済活動に致命的な混乱を招くばかりか、社会インフラという生活基盤の機能を喪失させ、国民の生命や財産に直接危害を与えかねません。」
 ……まさに、その通りですね! 平和憲法をもつ日本は、宇宙空間を戦争ではなく平和的に維持することに尽力すべきだと思います。そのための「防衛力」を強化できる技術、例えば「衛星コンステレーション」などを、民間で積極的に導入していくべきでしょう。
『新・宇宙戦争 ミサイル迎撃から人工衛星攻撃まで』……宇宙戦争がすぐそこまで迫っているのかもしれないことを痛感させられる本で、とても参考になりました。みなさんも、ぜひ読んでみてください☆
   *    *    *
 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
<Amazon商品リンク>