『「ロウソクの科学」が教えてくれること 炎の輝きから科学の真髄に迫る、名講演と実験を図説で (サイエンス・アイ新書)』2018/12/15
マイケル・ファラデー (著), ウィリアム・クルックス(原著) (著), 白川 英樹 (監修), & 1 その他

 19世紀の偉大な化学・物理学者のファラデーさんの、歴史的な名講演『ロウソクの科学』の記録をもとに、写真や図解、補足などを交えて、現代人の私たちに分かりやすく解説してくれる本です。
 1860年の暮れ、イギリス・ロンドンにある王立研究所の一角に、たくさんの少年少女、そして大人たちが集まりました。やがて現れた偉大な科学者、当時69歳だった化学・物理学者マイケル・ファラデーさんは、1本のロウソクを手に、優しく、そして楽しげに語り始めました……。
 この講演は書籍にまとめられ、世界的なベストセラー(日本語版は『ロウソクの科学』)として知られています。1860年当時の科学講演ですが、現代でもその内容は通用するもので、「ロウソクはなぜ燃えるのか?」、「燃えている間、何が起きているのか?」という謎を、実験を通して解き明かしていく過程で、空気や水、金属、生物といった、この世界を形作るものの仕組みも分かりやすく解説されていきます。
 この本は『ロウソクの科学』の完訳ではなく抄訳ですが、話のエッセンスがきちんとおさえられているだけでなく、当時の社会事情や、現代の科学知識などの解説も付け加えられています。さらに実験を再現した写真や図解も掲載されているので、原著の『ロウソクの科学』よりも、現代人の私たちにとって、いっそう分かりやすいものとなっていると思います。また、家庭で行うことが出来る実験も紹介されています。
 さて、ファラデーさんの講演では、聞き手の興味をかきたてる見事なストーリー展開で、「ロウソクはなぜ燃えるのか?」の解明だけでなく、「燃えている間、何が起きているのか?」の詳細な解説(実験)、「息をすることとロウソクが燃えること」には共通点があることなどが、次々に明らかにされていきます。
 個人的には、「燃料に適しているのは炭素」という話が印象的でした。炭素は空気中で燃えやすいだけでなく、燃焼によって炭酸ガスが発生し固体が残らないという素晴らしい性質があるので、燃料として一般的に利用されているのだとか。例えば、炭素ではなく鉛や鉄を燃焼させると、一酸化鉛や酸化鉄などの固体が残ってしまいますが、暖炉の中でそんなことが起こってしまうと、燃えたものを取り出すという作業が必要になって非常に面倒なのだそうです。……なるほど、確かにその通り! 薪などの「炭素」を燃やすと、軽い灰がほんの少し残るだけだから……後始末がすごく楽なんですね!
 ファラデーさんの素晴らしい講演「ロウソクの科学」を、実験の再現写真つきで、じっくり読むことが出来る本でした。
 各講演の終りには、その講演で学んだ内容の簡単なまとめもあり、巻末には「付録 全6講で起こったこと」として、燃焼などの化学反応の「化学式」も記載されています。実はファラデーさんの講演では、水素や酸素などの元素名は出てきていますが、化学式は登場していないのです。「水素原子と酸素原子で水の分子が構成される」という説は、ファラデーさんの時代、研究者の間でやっと受け入れられ始めたばかりだったからなのだとか。そんな時代に、実験中心の分かりやすい講演をしてみせたファラデーさんの凄さに、あらためて感心させられました。
 化学や物理の知識が得られるだけでなく、面白い実験やエピソードを楽しみながら、科学的な思考法に触れられる本だと思います。
 講演の最後にファラデーさんが言ったという言葉、とても心に沁みるものだったので、この記事のしめくくりとして、以下に紹介させていただきます。
「この講演の最後に、私の皆さんへの願いをお話します。どうか、皆さん、皆さんの時代が来たときに、1本のロウソクに例えられるのにふさわしい人となってください。すべてのあなたの行いを、あなたと共に生きる人々への義務を果たすもの、高潔で役に立つものとし、小さなロウソクであるご自身の美しさを証明していただけたらと思います。ロウソクのように光り輝き、周りを照らしてくださることを願っています」
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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