『ロウソクの科学 (角川文庫)』2012/6/22
ファラデー (著), 三石 巌 (翻訳)

「ファラデーの法則」などで有名な大科学者のファラデーさんが、ロウソクを使った実験をまじえて、その製法、燃焼、生成物質をはじめとする化学法則や、科学的に考える精神を教えてくれる本です。
 この本は、ファラデーさんが1861年のクリスマス休暇に、ロンドンの王立研究所で行った講演記録(6回分)が基になっています。このクリスマス講演は、王侯貴族から一般市民の子どもまであらゆる階層の人々が聞きにきたとか。主に少年少女を対象にした講演なので、とても分かりやすい内容になっています。講義の内容は次の通りです。
第1講 一本のロウソク―その炎・原料・構造・運動・明るさ
第2講 一本のロウソク―その炎の明るさ・燃焼に必要な空気・水の生成
第3講 生成物―燃焼からの水・水の性質・化合物・水素
第4講 ロウソクのなかの水素―燃えて水になる・水のもう一つの成分・酸素
第5講 空気中に存在する酸素・大気の性質・その特性・ロウソクのそのほかの生成物・二酸化炭素・その特性
第6講 炭素すなわち木炭・石炭ガス・呼吸および呼吸とロウソクの燃焼との類似・結び
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 単に「ロウソクはどうして、どのように燃えるか」の解説だけでなく、ロウソクから生成されるもの(二酸化炭素など)や、私たちの呼吸との類似点まで、幅広い内容が含まれています。
 こんな講演があったら、ぜひ聞きたかったなあ……と思いましたが、よく考えると実際に講演を聞くよりも、この本を読んだ方がずっと内容を理解できるはずだ、とも思いました(汗)。なぜなら、子供の頃、私も科学博物館などで「実験の実演」を見学したことがありましたが、透明な気体や水が燃え上がったり、溶液の色が変わったりすることに「わあ! すごい!」と目を凝らすことだけに集中してしまい、肝心の説明の方は、耳の空気中を右から左へと流れ去ってしまいましたから(汗……あくまでも個人の感想です)。
 科学実験は自分でやってみるか、実験に関する記事を何度か読み直さないと、なかなか本質を理解できないものだと思います。ということで、このような本の形でファラデーさんの講演を何度も読み直せるのは、幸運なことだと思います。
 とは言っても、1860年頃の科学知識でしょ? 今でも通用するの?と疑いを持つ方も多いと思います(実を言うと、私自身もそう思っていました)。たしかに科学の進歩は著しいのですが、『ロウソクの科学』で扱うような基礎的な部分の多くは、当時も今もあまり変わっていないそうです。また、この本は2010年に発行された新訳で、現代の読者のために詳細な訳注・解説がついていますので、科学的に間違ったことを学んでしまう危険性はほとんどありません。ご安心ください。
 内容もすごく分かりやすく、例えばロウソクが燃える時には、一番上にお椀のようなものが出来ますが、それは「ロウソクの熱によって生じた上昇気流が、ロウソクの外側の縁を冷やし、融けた燃料を入れる見事なお椀をつくる」からなのだそうです。
 そしてロウソクはなぜ燃えるのか、ロウソクは何からできているのかなどについて、さまざまな科学実験を通して教えてくれます。これらの実験を見て(読んで)いると、科学的に確かめてみるって、こういうことなんだなーと実感することが出来て、だんだんと科学的なものの考え方が養われていくような気がしました。
 でも残念ながら、現在ではロウソクはすでに身近なものとは言えなくなっています。現代の子どもたちにとっては、お祭りや防災などの「非日常」で使われるものという認識なのではないでしょうか。それでもロウソクは「燃焼」を学ぶための格好の教材として役に立つと思います。第2講以降の実験はご家庭ではなかなか出来ないかもしれませんが、第1講の一部の実験は、ご家庭でも再現できるものもあります。夏休みの自由研究のネタにもなるかもしれません。お子さんがいらっしゃる方は、ぜひロウソクをつけて親子で実験してみて下さい☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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