『時計遺伝子 からだの中の「時間」の正体 (ブルーバックス)』2022/9/15
岡村 均 (著)

 睡眠、血圧、体温、ホルモン分泌……体の中で起きているほとんどの生理現象は24時間の生体リズムを示します。それを起こしているのは、2017年のノーベル生理学・医学賞のテーマにもなった「時計遺伝子」。37兆個の全細胞に存在する時計遺伝子が臓器のリズムを作り、脳の視交叉上核という小さな部位が司令塔となって、全身の「時間」を司っていたのです。
「時計遺伝子」の分子機構から、睡眠障害・生活習慣病の関係までを総合的に解説してくれる本で、主な内容は次の通りです。
第1章 からだのリズムを作る時計遺伝子
第2章 生体リズムはどこで作られるのか? ――時計中枢の発見
第3章 時間情報の送信ルートを特定せよ ――脳から全身の臓器に至るまで
第4章 時計遺伝子は細胞分裂の時間も決める
第5章 光と時計遺伝子の深い関係 ――「朝日を浴びると良い」理由
第6章 生活習慣病と時計遺伝子 ――高血圧を分子レベルで解明する
第7章 時差ぼけはなぜ起こるのか? ――生物が初めて直面したリズム異常
第8章 視交叉上核の謎を解く ――朝型・夜型遺伝子の発見と睡眠障害治療薬の可能性
第9章 睡眠と時計遺伝子 ――霊長類の時計と睡眠覚醒リズム
第10章 なぜ生物は体内時計を持つようになったのか ――からだの「時間」を作る様々なメカニズム
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「第1章 からだのリズムを作る時計遺伝子」には、時計遺伝子の仕組みの概要が次のように書いてありました。
1)時計遺伝子から時計タンパク質が作られる
2)時計タンパク質が増えるとブレーキがかかる
3)時計タンパク質の量が減る
4)1)に戻る。(このループが、ちょうど24時間で1周となるように起きている)
 そして「第2章 生体リズムはどこで作られるのか?」によると、私たちの体内で24時間リズムを刻む時計中枢は、脳の中の「視交叉上核」だということが明らかになっているそうです。
 さらに「第3章 時間情報の送信ルートを特定せよ」には次のように書いてありました。
「(前略)視交叉上核からの時間情報を伝達しているのは自律神経系で、多くの臓器にいく交感神経と副交感神経の両方に出力されます。目で光を受け取るのを「視交叉上核」のインプット(入力)」とするならば、視交叉上核でつくられる24時間リズムをアウトプット(出力)するルートが自律神経系です。」
「交感神経系は運動するときに、副交感神経系はリラックスするときに活発になるということは、言い換えれば「交感神経系は日中に活発になる」、「副交感神経系は夜に活発になる」ことになります。これはまさに24時間リズムです。」
 そして「時間情報の送信ルート」は、次のような流れになっているのだとか。
1)眼に入ってきた光の信号を脳内の視交叉上核で受け取る
2)視交叉上核では、生体リズムの時計中枢となるリズムを作る
3)交感神経系を介して副腎に伝わり、副腎皮質から糖質コルチコイドが分泌される
4)全身の細胞にある糖質コルチコイドの受容体が糖質コルチコイドを認識し、細胞が一日の始まりを認識する
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 ……私たちのからだは、こんな感じに24時間リズムを刻んでいたんですね……。
 そしてこの後も、「細胞分裂にも24時間周期がある」とか、「高塩分の食事が高血圧を引き起こす原因になるが、それには時計遺伝子も関わっている」とか、「バソプレシンの受容体であるV1aとV2aが正しく機能するがゆえに外の急な明るさに対応できない(時間遺伝子の混乱が起こって時差ぼけが起こる)」とか、「哺乳類で存在が確認されている時計遺伝子はPer1、Per2、Per3、Cry1、Cry2、Bmal1、Clockの7種類で、これらが時計に欠かせない必須の部品である」など、時計遺伝子に関する最新研究をたくさん知ることができました。かなり専門的な内容でしたが、とても勉強になるので、興味のある方はぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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