『パーツから考える戦国期城郭論』2021/3/1
西股総生 (著)

 堀、曲輪(くるわ)、馬出(うまだし)、枡形虎口(ますがたこぐち)、竪堀(たてぼり)、土塁、横矢掛など、城の構成要素の生まれた背景・理由から機能・運用法を徹底的に考察・解説し、その作業を通じて「城とは何か」に迫っている新しい城郭論です。
 城を構成する要素には、次の4種類があるそうです。
1)障碍の要素(敵の侵入を阻む):堀、土塁と切岸、竪堀
2)導入系の要素(連絡のための経路):馬出、枡形虎口
3)火力発揮の要素(飛び道具を使うための工夫):横矢掛り、櫓台
4)空間構成の要素(場内を区分・用益する):腰曲輪と帯曲輪
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 これらの要素ごとに、生まれた背景と理由、合戦での使われ方などを、実際の城の写真や模式図などを使って分かりやすく解説してくれます。

 本書の冒頭には、実際の城のカラー写真があるだけでなく、城郭のパーツを描きこんだ戦国期城郭のイラストもあるので、切岸や櫓台、曲輪などが、どんな場所にある、どんな形のものかがよく分かります(16頁のカラー口絵をはじめ、全210点の図版(イラスト、縄張図、運用概念図、写真等)を掲載)。
 観光地としての城めぐり(百名城スタンプ集め)をたまにしますが、土塁と切岸、竪堀などのことをきちんと調べたことがなかったので、とても勉強になりました。なにしろ城めぐりの初期の頃は、「曲輪(くるわ)」の看板を見て、ここには遊郭があったの? と勘違いしてしまったほどのド素人。その後、曲輪というのは、どうやら家臣などの住居跡のことのようだと考えるようになりましたが、なんと、それすら少し違っていることを、この本を読んで初めて知りました……(汗)。曲輪には、私のように「建物のある居住スペース」で「平らに整地されたスペース」という先入観を持つ人が多いそうですが、実は建物が建てられそうにないスペースのものも多いそうです。「曲輪の本質は戦闘区画。居住スペースにあらず」で、「土塁などの障碍によって防禦された場内の区画」と考えるべきなのだとか。……なるほど、そうだったんですか。
 また堀や土塁などの解説もとても参考になりました。山城を歩いた時、この本にある写真のような風景(堀切や土塁など)をよく見ましたが、ただなんとなく眺めていただけだったのです。でも、このような知識がちゃんとあれば、城歩きをもっと楽しめそう。
 城には戦闘のための工夫が、随所に散りばめられているそうです。
「堀などの障碍によって敵の侵入を阻み、敵の攻撃が集中するポイントを狙って火点を設定すれば、少数の弓・鉄砲でも効果的に敵を仕留めることができる。」
 ……確かに。武器が無限にあるはずがないので、城に攻め込んできた敵を効率的に仕留めるには、どうしたらいいかとか、外部との連絡をどう取るかとかの工夫は、文字通り死活問題だったはずです。
 そういう目線で城めぐりをすると、戦国時代の殿様(将軍)気分を味わえるかも。この本にも、次のようなアドバイスがありました。
「馬出は、虎口をめぐる攻防で重要な機能を果たす施設である。なので、実際に馬出の遺構を歩くときは、「攻」「防」それぞれの視点で、戦闘を脳内シミュレーションしながら歩くとよい。」
「虎口を通って曲輪に入ってくる導線全体を見渡しながら、桝形から有効な射点・射界が得られるか、城兵の立場になって確認してみる。」
 日本の城の構造や機能を詳しく知ることが出来る本でした。城好きの方は、ぜひ読んでみてください。百名城めぐりが、いっそう楽しくなると思います☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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