『延びすぎた寿命』2022/4/21
ジャン=ダヴィド・ゼトゥン (著), 吉田春美 (翻訳)
人類の寿命は後退期に突入した? 平均寿命が30歳だった18世紀から、現在の長寿社会(世界の平均寿命は70年を超えています)までの寿命の引き延ばしの歴史を、生物学、医学、環境、行動の4つの角度から検証している本です。
序文には、次のように書いてありました。
「本書がこれから語るのは、おもに、一本調子で上昇する寿命カーブに隠されたこれら三つの現象、すなわち健康の決定要因は変化すること、社会の改善はときに人間に不利益をもたらすこと、そして将来の健康はほとんど予想不可能なこと、である。」
本書の前半では、人間がどんどん長寿命化してきた経緯が語られます。それは、衛生設備、飲料水、栄養、ワクチンなどによるものでした。
そして「11章 三倍長生きするのにいくらかかるか?」からは、それにもかかわらず、今後の未来が不確実であること(さまざまな問題)が語られていきます。
例えば、寿命の伸長と同時に人間が生み出した3つの問題には、次のものがあげられるそうです。
1)健康上の利益を得るにはコストがかかる
2)社会的な不平等が生じ、ときに拡大している
3)行動リスク(タバコ、アルコール、運動不足、肥満など)と環境リスク(汚染など)という新たなリスクを生み出した
そして「14章 後退する人間の健康」では、一部の人々の死亡率が悪化している直接の原因として、アルコール、鎮痛剤オピオイド、自殺の三つがあげられていました(……うーん……)。
さらに「16章 新興感染症」では、パンデミックが増加している原因として、生物多様性の崩壊を指摘しています。次のように書いてありました。
「人間が種の消滅に関与するようになって数千年たつが、動物の絶滅率はそれまでより100倍から1000倍上がっている。(中略)種が消滅すると、それに依存して生きていたウイルスが圧力を受ける。そのため、ウイルスは新しい環境に適応しようとして、宿主を替えるのである。うまく宿主を見つけることのできたウイルスが、進化で優位に立つ。こうして野生の生物種が減ると、ヒトのウイルスが増えるのである。」
さらに次のような問題も。
「(前略)私たちは病気に関して明らかに行き詰っている。抗微生物薬の技術革新がほとんど進まないいっぽう、既存薬への耐性は深刻になるばかりである。」
「終章」には、現在私たちが見舞われている「新型コロナウイルス(COVID-19)」で、次のような5つの真実が明らかになったと書いてありました。
1)原因は私たちと環境との関係で生じた(野生動物と人間の距離の近さ、生物多様性の崩壊)
2)健康リスクへの否認と忘却(健康問題を過小評価しがち)
3)世界が高齢化し不健康になっている
4)世界が柔軟性に欠けている(人々は密集、インフラは複雑で、人々は相互に依存)
5)医療業界はこの状況に素早く対応した(有効なワクチンが一年足らずで認可された)
そして、「世界的な健康改善運動」を行っていくべきだと提案しています。それは具体的には、「汚染を抑制する」、「エネルギーの転換を加速させ化石燃料から脱却する」、「人口の密集を避ける」、「都市化を見直す」、「電力による輸送と体を使った移送を推進する」、「農業と土地利用を規制する」、「肉の消費を減らす」などで、これらは、問題を解決して生産性を回復させるだけでなく、人類に方向性と見通しをもたらし、私たちは、寿命を延ばすより、もっと健康になることを目指せるようになるそうです。
……なるほど。私も健康長生きを目指したいので、これを心掛けたいと思います。
人間の長寿命化の歴史と、今後もそれが続くかどうかは不確かであることを教えてくれる本でした。ここで紹介した以外にも、数多くの参考になる情報が満載です。みなさんもぜひ読んでみてください。
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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