『動物意識の誕生 上: 生体システム理論と学習理論から解き明かす心の進化』2021/5/21
シモーナ・ギンズバーグ (著), エヴァ・ヤブロンカ (著),
『動物意識の誕生 下: 生体システム理論と学習理論から解き明かす心の進化』2021/5/21
シモーナ・ギンズバーグ (著), エヴァ・ヤブロンカ (著), & 1 その他
何があればその生物に「意識」があるといえるのか? 神経機構か、感覚器官か? そうではなく「学習」こそがカギだと喝破するギンズバークさんとヤブロンカさんは、「意識」がカンブリア爆発と同時に進化したと推定します……ギンズバークさんとヤブロンカさんの「意識の進化研究」の集大成で、内容は次の通りです。
I 理由づけと基礎づけ
第一章 目的指向システム──生命と意識に対する進化的アプローチ
第二章 心の組織化と進化──ラマルクから意識の神経科学まで
第三章 創発主義的合意──神経生物学からの視点
第四章 クオリアのギャップを生物学で橋渡し?
第五章 分布問題──意識はどの動物に備わっているのか?
II 心の進化に起こった、いくつもの重大な移行
第六章 神経への移行、最低限の意識を構成する部品
第七章 連合学習への移行──第一段階
第八章 無制約連合学習への移行──サイコロの重心をずらす方法
第九章 カンブリア爆発と、その魂あふれる派生
第十章 ゴーレムの苦境
訳者あとがき
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「I 理由づけと基礎づけ」では、心性(精神)に対する進化的アプローチの歴史、そして意識に対する現在の神経生物学的アプローチと哲学的アプローチなどが紹介されています。
そして「II 心の進化に起こった、いくつもの重大な移行」からは、「無制約連合学習や動物意識の進化の始まり、実現、安定化にかかわる生物学的条件とは何か」そして「動物の進化しで無制約連合学習や動物意識がどのように精緻化を遂げたか」について進化の観点から分析しています。
各章の冒頭にはその章の要約が書いてあり、分かりやすさに配慮してくれてはいるのだとは思いますが……そもそも「意識とは何か」が大変な難問のせいか、一度読んだぐらいでは到底理解できそうに思えないほど難解で、読むのにとても苦労してしまいました。
本書の核心に関しては、訳者の鈴木さんが「訳者あとがき」で要約してくれているので、それを紹介させていただきます。
「ギンズバークとヤブロンカによれば、意識の進化的起源を探る鍵となるのは、ふたりが「無制約連合学習」と呼ぶ学習様式である。単純な刺激に対しステレオタイプ的に(決まりきったパターンで)反応する制約下連合学習とは違い、無制約連合学習ではさまざまな刺激や動作の組み合わせを連合できるため、その組み合わせの数に制約がない。たとえば単なるブザー音を鳴らしたときに電気ショックを与えて恐怖反応を起こすよう動物を条件づけたとしても、それは制約下連合学習に区分される(刺激が単純なため)。一方で、特定の音の配列(メロディー)を鳴らしたときにだけ恐怖反応を起こさせたり(非要素的学習)、ひいてはそのメロディーを使ってさらに別の刺激(たとえば特定の画像)にも恐怖反応が起こるよう条件づけできたりすれば(二次条件づけ)、その学習は無制約連合学習であると判断される。ギンズバークとヤブロンカによれば、無制約連合学習こそが意識の存在を示す目印なのだ。異常がギンズバークとヤブロンカの理論の核心である。」
そして「意識」の起源としては、カンブリア紀だと考える研究者が多いようです。この本の「第九章 カンブリア爆発と、その魂あふれる派生」の冒頭の要約には、次のように書いてありました。
「カンブリア紀に、何が無制約連合学習や意識感覚の創発を引き起こしたのだろうか。それは連合学習を可能にする中枢神経系の進化により始まり、学習の駆動するさまざまな適応のあいだのフィードバック・ループを生み出したとわれわれは論じる。これにより進化の軍拡競争が起こり、軍拡競争は後生動物の放散を加速させ、節足動物と脊椎動物での無制約連合学習や、これらの動物と応酬を繰り広げる動物種での多様な行動的・形態的適応をもたらした。だが大革新の例に漏れず、無制約連合学習には支払うべき代償があった。無制約連合学習は過学習に至る可能性があり、過学習はストレスや神経症、病気を引き起こす恐れがあったのだ。それゆえ無制約連合学習の見られる動物では能動的な忘却をもたらす強い選択がかかり、それがやがてカンブリア紀末まで続いた高い進化速度を減速させるのに寄与した。それゆえカンブリア紀の節足動物と脊椎動物の多様化の進化ダイナミクスを駆動したのは、学習や神経ホルモン性ストレス反応、免疫系の共進化だった。(後略))」
ギンズバークさんとヤブロンカさんは、「意識」という難問に「進化的アプローチ」から取り組んでいますが、この進化的アプローチには次のような利点があるそうです。
「起源に注目する進化的アプローチをとる利点は明確だ。意識を欠く生物から最低限の意識を備えた生物への移行が、進化史のなかで「いつ」「どのように」起こったのかを特定できれば、それにかかわるプロセスや組織化の原理について、主体的体験の根本的性質を覆い隠してしまう派生的な(構成要素の)分離・統合があとから起こったとしても、それに惑わされることなく探求できるのだ。」
……確かに。このようなアプローチでの意識研究は、人間など生物の意識だけでなく、「ロボットに意識はあるか」の研究にも役立ちそうな気がします。
研究対象が難題とされる「意識」なだけに、とても難解な本でしたが、最終章の「第十章 ゴーレムの苦境」は、仮想論敵(IM)と、ギンズバークさんとヤブロンカさん(WE)の対話形式になっていて、他の章よりずっと分かりやすく、また考えさせられることも多かったと感じました。「ロボットの意識」についても、この章の中で言及されています。読むのはかなり大変ですが、「意識」に興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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