『洞窟ばか~すきあらば前人未踏の洞窟探検』2021/4/29
吉田 勝次 (著)

 そこは鼻をつままれてもわからない漆黒の世界。滴下水でびしょ濡れになり、狭い隙間にはまって動けなくなり、ときには落石で骨折することもある。何度死にかけようとも、暗闇のその先にある、誰も見たことのない世界がどうしても見てみたい……洞窟に魅入られた男のエネルギッシュな洞窟探検ドキュメンタリーです。
 観光で秋芳洞などの鍾乳洞には入ったことがありますが、これはそんなレベルの洞窟話ではありません。「誰も言ったことのない洞窟の先がどうなっているのかを見たい。腹の底からドキドキしたい。」を原動力として、前人未踏の洞窟を探し、巨大洞窟を探査してきた洞窟探検家の話なので、とにかくもの凄いエピソード満載です☆
 例えば日本一長い洞窟・岩手の安家洞に行った時には、行き止まりの砂山をなんと6日も掘り進んで、さらに5キロぐらい通路(洞窟)が続いているのを発見し、その新洞窟を含めた総側線距離が13キロとなって、日本一長い洞窟記録をさらに伸ばしたそうです。
 また三重県で前人未踏の洞窟「霧穴」も探検していて、これも読みごたえがありました。霧穴には探索用のベースキャンプを作っていて、探索方法だけでなく、ベースキャンプの作り方など、実際に洞窟探検をする際に役立つ情報もたくさん読むことが出来ました。
 さらに洞窟写真も掲載されていて、これもとても素晴らしい写真ばかりです。冒頭14ページが洞窟のカラー写真。洞窟の写真というと、闇に仄白い鍾乳石の壁みたいな写真ばかりかと思いきや、冒頭の南大東島(沖縄)の洞窟の青く輝く地底湖など、ライトアップされた美しい幻想的な洞窟写真や、泥だらけで壁を這い進み、闇の水の中を進んでいくリアルな写真など、洞窟の美しさや厳しさを垣間見せてくれる素晴らしい写真をたくさん見ることが出来ました。これらの写真は、内容を読んだ後にもう一度じっくり見ると、ああ、あの話はこの洞窟で起きていたのか……ということが分かって、さらに感動的です。

 またこれらの興味深い話を通して、洞窟探検のノウハウもすごく実践的に学べます。
 例えば未踏の洞窟探しは、なんと「Google Earth」を活用しているのだとか。次のように書いてありました。
「新しい洞窟を探すとき、最初に見るのは地質図と地形図である。
 地質図は、地下が石灰岩で形成されている場所を探すために使う。なぜ石灰岩かと言えば、鍾乳洞は石灰石のあるところにできるからだ。
 石灰岩質の場所を見つけたら、次にその一帯の地形図を見て、洞窟がありそうな地形を読み取っていく。注目すべきは「水の流れ」だ。(中略)つまり、前後には水が流れているのに、その間で消えている場所には洞窟が存在している可能性が極めて高い、というかほぼ間違いないと言えるのだ。
 最近では、地質図や地形図だけでなく、Google Earthで地形を見ることも多い。地形を見れば、地質もだいたいわかるので、Google Earthで世界中の地形を眺めながら、洞窟がありそうな場所の目星をつけている。Google Earthが便利なのは「ここだ」という場所を見つけたらすぐに座標を取れることで、現地に言ったらGPSとその座標情報をもとにピンポイントで洞窟探索ができるというわけだ。」
 また測量に関しては、次のように書いてありました。
「測量は、人によって好き嫌いが分かれる。うちのチームのメンバーのほとんどは、探検は好きだけど、測量は大嫌い。測量機器から出るレーザー光線を洞窟内の壁に当てて、距離や角度、緯度経度を測るだけなので、地味だし、つまらないし、面倒だし、(ほとんど動かないので)寒いし、何も楽しいことがない、というのが彼らの意見である。」
 ……そうなんですか。観光洞窟(鍾乳洞)に行くと、細かい洞窟地図があって、凄いなー、こんなのどうやって作ったんだろうなー、大変だったんだろうなーと思いながら眺めていましたが……やっぱり苦労して作っていたんですね……ありがとうございます。
 この他にも、いろんな洞窟を探検したときのリアルな話をいろいろ紹介してくれて、うわー大変だー怖すぎる、私には無理だーとか思いながらも、すごく興味津々で読みふけってしまいました☆
 その一例をあげると、次のような感じ。
・陥没ドリーネの陥没範囲が広すぎて、頭上から光が差し込み、穴の底に鬱蒼としたジャングルがあるほどの世界最大の巨大洞窟(ベトナムのソンドン洞窟)
・入口が世界最大級の400メートルの巨大縦穴になっている洞窟(メキシコのゴロンドリナス洞窟)
・新発見した東南アジア最大級の規模の溶岩洞窟(ベトナム・ダクノン省の火山洞窟群)
 などなど。登山の経験もダイビングの経験も、さらには本業の建設業の仕事も洞窟探検に活きているそうです。逆に言うと……体力とともに、そういうスキルが必要なんですね……。
 自分では到底体験できそうにない(したくない?)前人未踏の洞窟探検(かなりの危険を伴っています)をたっぷり堪能できる本でした。洞窟探検をしてみたい方はもちろん、探検好き、地学好きの方もぜひ読んでみてください。とても面白いので、お勧めです☆
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