『地名から歴史を読む方法 (KAWADE夢文庫)』2004/8/10
武光 誠 (著)
由緒ある地、港町、農村から私たちの住む町まで、どんな地名にも日本の歴史が秘められているそうです。大和朝廷の土地開発にちなむ地名、中世の荘園制度が生んだ地名、江戸時代の城下町の町づくりがわかる地名など、地名を手がかりに日本の歴史を紹介してくれる本です。
埋立地には、「洋」や「島」、「潮・汐」など海っぽい名前がついていることに気がつき、津波被害を予測するためにも、地名にその地の地理的特性が入っていると分かりやすくていいなと思っていたところ、この本を見かけたので早速読んでみました。
やっぱり地名には、「川」や「田」など、その地の地理的特性が入っている名前も多いようですが、想像以上に、その地の歴史を物語る名前も多かったことが分かって、とても興味深く読めました。
「川」が入る地名はとても多いようですが、実は「鶴」という地名も、川に由来するものが多いのだとか。
「古代には水の流れているところが「水流(つる)」と呼ばれた。宮崎県には川水流(かわづる)などの表記をとる地名が残っているが、今日では「水流」に「鶴」の字があてられる場合も多い。つまり、鶴のつく地名の多くは、ツルがいたことにもとづくものではなく、川のそばをあらわすものなのである。」
へー、そうだったんだ。「川にちなむ地名のなかには、一見「川」由来と思えない地名もある」そうで、「鶴」の他にも「峡(かい)」「貝」、「迫(さこ)」、「宇土(うと)」「鵜戸」、「袋」なども川や水に関する名前だそうです。
また「田」の名前は新田開発など文字通りの「田」に由来するものが多いのですが、「和田」だけは、海神の「綿津見(わたつみ)」など、「田」以外に由来することもあるのだとか。
日本は古代から新田開発をしてきたので、それに由来する名前は多いそうです。
「古代人は原野を開拓することを「はる」といい、新たに開かれた田を「墾田(はりた)」と呼んだ。」そうで、「春」「治」「張」の字が使われたり、それが転じて「堀」「洞」になったこともあるのだとか。堀田や春田の地名は、古代に新たに開かれた田を示しているそうです。
この他にも、地名に残されている日本の歴史の解説をたくさん読むことが出来ました。
「漢字二字の地名がスタンダードなわけ:奈良時代初めに、地名を二字の好ましい字に改めよという命令が出され、それと同時に国ごとに『風土記』という地誌がつくられている。このときに国名、郡名、郷名が二字に改められた。」
「大国主命信仰などのヘビ信仰にまつわる地名:長、宇賀、美馬。長が那珂や那賀に変わることもある。」
「「坂」のつく地名は境界をあらわしている(村落の境は坂であることが多かったため)」
「追分は、街道の分かれ目で商人の一隊が、引きつれてきた馬を大きな声で二つの道に追い分けたことが由来」
「〇条、〇里という小地名は、古代の条里制という土地区画をもとにつくられたもの」などなど……。
ちょっと驚いたのは、「総社」や「一宮」は、「祭祀が「疎か」になって生まれた」ということ! 名前の荘厳な響きから、すごく宗教的で畏れ多い感じがしていましたが、実はまったく逆で、祭祀が簡略化されることで生まれたもののようです。「総社」は、「一国内の神社をまわって神事を行う手間を省くために、一国の神々の分霊を集めて、国衙のそばに新たにつくった神社」で、「一宮」も、「国司が祭祀を簡略化して、一宮など有力な神社の祭りだけですませようとしたことによるもの」なのだとか。
この他にも、県名ができたいきさつ、大和朝廷の土地開発にちなむ地名、中世の荘園制度が生んだ地名、江戸時代の城下町の町づくりなど、「地名」から歴史が読めることを、いろいろと知ることが出来ました。地理や歴史が好きな方は、ぜひ読んでみてください。身近な地名に秘められた歴史を知ることが出来て、とても興味深いと思います。
(なお、私が読んだのは、1999発行の本でしたが、この本にはより新しい文庫本がありますので、ここでは、それを紹介させていただきました。)
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