『実践仕掛学: 問題解決につながるアイデアのつくり方』2023/11/22
松村 真宏 (著)

 仕掛けた人も、仕掛けられた人も同時に幸せになる、あなたの「ちょっと困った」を解決する思考法を教えてくれる本で、内容は次の通りです。
序文 仕掛けのレシピ
1章 仕掛学のおさらい
2章 そそる仕掛け
3章 正論のジレンマ
4章 仕掛けのコツ
5章 仕掛けカタログ
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「仕掛け」とは、つい行動してしまうきっかけになるものだそうです。「1章 仕掛学のおさらい」には、仕掛け学について次のように書いてありました。
「(前略)仕掛け学では従来の選択肢は残しつつ、それよりも魅力的な選択肢を用意することを考える。
 人には変化を避けたり未知のものを避けたりする「現状維持バイアス」がある。したがって、基本的には従来の行動が選ばれ、新たな行動は選ばれにくい。新たな行動はわざわざ選びたくなるような工夫が必要になる。」
 そして「仕掛け」が満たすべき要件には、次の3つがあるようです。
1)公平性(仕掛けによって誰も不利益を被らないこと)
2)誘引性(ついしたくなる性質を備えていること)
3)目的の二重性(仕掛ける側と仕掛けられる側で目的が異なること)
 ……そして「4章 仕掛けのコツ」によると、これに次の2つを追加すると、仕掛けに反応してもらいやすくなるのだとか。
4)新規性:これまで見たことがないもの
5)親近性:よく知っているもの
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 ところで、この「仕掛け」というのは、要するに行動経済学で言うところの「ナッジ」なんだろうなーと思っていたのですが、ちょっと違うそうです。「2章 そそる仕掛け」によると、その違いとは……
「仕掛けは遊び心を利用するのに対し、ナッジは人間の意思決定の癖(認知バイアス)を利用して行動を促すアプローチである。(中略)
 ナッジは個々の自由を最大限に尊重しようとする思想(リバタリアニズム)に基づいてはいるものの、デフォルトのような認知バイアスを利用して行動を促すアプローチなので、無自覚的であり消極的な行動の選択になる。
 一方、仕掛け学もリバタリアニズムの思想に基づいているが、遊び心を利用して行動を促すアプローチなので、自覚的であり積極的な行動の選択になる。(中略)
 仕掛けは物体を用いて物理的に介入するのに対して、ナッジは情報の提示方法を工夫することで概念的に介入する。
 以上の特徴から、ナッジはよく「つつく」と表現されるのに対し、仕掛けは「そそる」と表現できる。「つつく」はそっと促すのに対し、「そそる」はしたいという欲求が含まれているところが大きな違いである。」
 ……ナッジが私たちに暗黙的な働きかけをしてくるのに対し、仕掛けは、より主体的な働きかけをしてくるもののようです。
 また「3章 正論のジレンマ」では、「仕掛け」を作る際の倫理的問題について、次のように書いてありました。
「仕掛けの倫理的課題に関しては、行動変容の倫理的問題についてのガイドラインが参考になる。たとえば、日本版ナッジ・ユニットBESTナッジ倫理委員会による「ナッジ等の行動インサイトの活用に関わる倫理チェックリスト1調査・研究偏」やOECD「Tools and Ethics for Applied Behavioural Insights:The Basic Toolkit」などが公表されている。そこでは、調査・研究目的の妥当性や調査・研究手段の妥当性、調査・研究協力者の心身の安全などの項目が挙げられている。」
 ……確かに、実際に「仕掛け」を作る際には、倫理的問題についても考える必要がありますね。
 そして「5章 仕掛けカタログ」からは、「仕掛け」の事例がたくさん紹介されていました。
 その一例、天王寺動物園のライオンの顔の形をした「勇気の口(イタリアのローマにある、嘘つきは手が抜けなくなるという「真実の口」を模したもの)」に手を入れると……ぴゅっと冷たいものが噴霧されて手指が消毒される(笑)という手指消毒器では、利用が4.8倍になったそうです。
 同じような仕掛けが、大阪大学医学部附属病院、大阪ガスマーケティング株式会社の社員食堂、甲子園で使われていますが、どれも効果があったようです。
 とても興味深かったのが「社員食堂」での長期実験例。ここでは徐々に「真実の口」の使用量が減る一方で、通常の手指消毒器の使用量は増加……つまり「仕掛け」は飽きられましたが、仕掛けをきっかけに習慣化が起こったことが確認されたそうです。
 また面白かったのが甲子園の「ラッキーの口」の例。ラッキーなどの阪神タイガースのマスコットキャラを使った真実の口には、口元に「本当の阪神ファンならアルコールがでます」と書かれているそうです(笑)……これは……阪神ファンでなくても、そそられますね!
 仕掛けた人も、仕掛けられた人も同時に幸せになって、良い習慣が身につくきっかけを作ることが出来る、そんな素敵な「仕掛け」の効果や作り方を教えてくれる本でした。ユーモアを使って、さりげなく問題解決をしたい、と考えている方は、ぜひ読んでみてください。何かヒントをつかめるかもしれません☆
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