『世界の食はどうなるか:フードテック、食糧生産、持続可能性』2024/1/26
イェルク・スヌーク (著), ステイファン・ファン・ロンパイ (著), & 1 その他

 パンデミック、戦争、気候変動と人工知能、3Dプリンターで作る食品、都市農業、海の農場、培養肉、食の安全性、ハイブリッドな市場、スーパーマーケットの役割とパラダイムシフト、食品ロス、eコマース、未来の食と流通ネットワークなど様々なテーマを取り上げて、具体的事例とともに現状やトレンドを徹底分析している「新しいフードシステムのためのレシピ」で、主な内容は次の通りです。
まえがき さあ食べよう!
第一章 メニューに書かれた大きな課題
第二章 消費者は未来をどん欲に求めている
第三章 新たなフードシステムの材料
第四章 持続可能なシフトに必要な要素
第五章 新しい流通モデルのレシピ
第六章 未来のトレンドを作り出す人たち
エピローグ
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 とても参考になったのが「第三章 新たなフードシステムの材料」。新しい食品へのさまざまな取り組みを知ることが出来ました。
今、農業と漁業には変革が求められています。
「(前略)人間と地球のいずれの健康にも役立つ多様な食品の生産へと切り替えなければならない。」
 ……確かにそうですね。
 昆虫や海藻を新しい食品にする事例の他にも、バイオリアクターでの牛肉、豚肉、鶏肉、魚肉の「培養」の事例が紹介されていました。(実は昆虫食などは、高い栄養価の割に苦戦しているようですが……)
 新しい農業にはハイテクが活用されているようで、ドローンや人工衛星、センサーとスマートカメラ、管理ソフト、自動化とロボット、新レシピ(昆虫や海藻を飼料や肥料に)、生物農業(微生物など)、都市農業、遺伝子組み換え、農業用eコマースなどの事例が紹介されていました。
 なんと「ドローンが果物摘み労働者に」なっていることもあるようです。次のように書いてありました。
「イスラエルの企業、テヴェル・エアロボティクス・テクノロジーズは、人工知能を活用して果物を見つけ、収穫する自律型ロボットを開発している。このロボットは一日二四時間作業可能で、熟した果物だけを収穫する。」
 ……人工知能が葉の中から果実を見つけて大きさと熟れ具合を判別、枝など周辺状況を見極めて安全に近づいてから、摘み取りアームを伸ばして果実を収穫するそうです……ドローンの動き制御の精密さに驚かされます……これは安全保障上も役に立ちそうな技術ですね! これを参考に、日本もどんどんドローンの平和活用を進めていくべきでしょう。
 また驚かされたのが、次の記述。
「世界中で人間が消費する食品の四分の三は、わずか一二種類の農作物(サトウキビ、トウモロコシ、米、小麦、ジャガイモ、大豆、テンサイ、パームナッツ、トマト、大麦、バナナ、キャッサバ)と五種類の動物(ウシ、ニワトリ、ヤギ、ブタ、ヒツジ)由来のものである。」
 ……そうだったんだ。これらの食品は「単一栽培」されていることが多く、感染の危険性があることが指摘されていました。
 そして代替製品には、培養肉だけでなく培養乳や、なんと培養卵まであるそうです。
生きたウシなどから取り出した細胞で肉を培養させる方法の一部を紹介すると、次のような感じ。
「(前略)取り出した細胞は次にバイオリアクターで培養する(成長させる)。動物の体内と同じように、細胞には酸素を豊富に含む培地(血清)で栄養が与えられる。培地にはアミノ酸、グルコース、ビタミン類、ミネラル類などの基本栄養素が含まれ、タンパク質や成長因子なども添加されている。しばらくすると細胞は増殖し始める。(中略)
 血清の組成を変化させることで細胞や筋肉組織、脂肪組織、結合組織へと分化し、その後に収穫されて、最終製品が製造される。」
 ……この培養肉の手法で、培養乳も製造可能だそうです。
「培養肉との主な(そして重要な)違いのひとつは、乳タンパク質は「本物の」乳を使って培養するのではなく、酵母による発酵で生産するという点である。」
 ……これらの培養食品は本物の肉や乳と同じぐらいヘルシーなだけでなく、栄養価を最適化することもできるそうです。
 さらに微生物からタンパク質を作ることも!
「微生物タンパク質も、必要とされるタンパク質革命に役立つ可能性のあるソリューションだ。細菌を利用して、バイオリアクターでタンパク質を培養することができるのだ。主な利点としては培養工程が迅速で、希少で高価な土地を使う必要がなく、食品製造業から出る排水を再利用できることが挙げられる。(中略)これはいってみれば循環型システムだ。」
 また3D印刷は、チョコレートやパスタなどの食品を作ることができるだけでなく、個人事情に合わせて食品を個人化することや、残らず食べられるミニ菜園を作ることまで出来ることが紹介されていました。
 そして「第四章 持続可能なシフトに必要な要素」では、食品廃棄と食品ロスについての次のような現実に驚かされました。
「食品業界が気候変動の解決に貢献しようと望むなら、食品廃棄と食品ロスの削減を重要課題の中心に据える必要がある。現状の廃棄とロスの量に関する数字はショッキングである。廃棄される食品から排出される温室効果ガスは、廃棄量全体の八~一〇%分を占めているのだ。食品廃棄をひとつの国にたとえるなら、中国と米国に次いで世界第三の排出国になってしまう。世界の淡水使用量の四分の一は決して食べられることのない作物の栽培に使用されている。」
 ……なんてもったいない! 世界には飢餓に苦しんでいる人も大勢いるのに……(涙)。
 そして「第五章 新しい流通モデルのレシピ」では、オンライン購入の増加や、個人の嗜好が多様化している現在、大量消費が過去のものとなり、スーパーマーケットやハイパーマーケットが問題に直面していることなどが書いてありました。
『世界の食はどうなるか:フードテック、食糧生産、持続可能性』……まさに、このタイトル通りの本で、現在から未来の食について詳しく分析して紹介してくれました。
 個人的には、未来の食はこれまで以上に「安全で健康にも環境にも良い」ものであって欲しいと願っています。本書にも次のように書いてありました。
「安全、ヘルシーで栄養豊富かつ信頼できる食品の重要性は、私たちの食事文化の中で不変のテーマになった。その結果、透明性と情報公開はいまやすべての生産者に求められる必須条件になっている。」
 ……この本は未来の食だけでなく、社会を考える上でも、とても参考になると思います。みなさんも、ぜひ読んでみてください☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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