『日本のM&A150年史―日本企業はどう成長してきたか』2024/1/19
川本 真哉 (著)

 企業のM&Aの動機と成果を、日本企業が明治期以降の150年間に行ってきたM&Aを題材に、理論的・歴史的に解説してくれる本で、内容は次の通りです。
序 章 本書の目的、特色、構成
第1章 M&Aの経済的機能
【第Ⅰ部 戦前・戦時期のM&A】
第2章 紡績大合同
第3章 財閥の成長とM&A
第4章 金融恐慌と電力戦:1920年代のM&A
第5章 独占とグループ再編:1930年代の企業合併
第6章 戦時経済とM&A
【第Ⅱ部 戦後のM&A】
第7章 財閥解体:安定株主の喪失と買い占め
第8章 資本自由化と大型合併、系列化
第9章 持株会社:経営統合と組織再編
第10章 会社支配権市場:敵対的買収と防衛策
第11章 クロスボーダーM&A
第12章 ゴーイングプライベート:MBOの動機と成果
終 章 M&Aと日本経済
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「はしがき」には、次のように書いてありました。
「(前略)本書を通読していただくことで、日本企業がいかなる強み(あるいは弱み)を有してきたかが、明治期から戦時期、そして戦後から高度経済成長期、さらにはバブル崩壊後のM&Aという、企業のガバナンスにとって重要なイベントから一望することが可能となろう。」
 日本企業が明治期以降の150年間に行ってきた大型のM&Aについて、具体的に分析・評価しているので、M&Aの成功例や失敗例に学べるだけでなく、この150年間の日本の産業界の動きを俯瞰的に把握できて、とても参考になりました。
 最初の「第1章 M&Aの経済的機能」には、M&Aの発生要因、動機、評価方法が概説してあるので、以降の章を読むときの基礎知識(復習)にもなります。
 また各章とも、最初に「本章のまとめ」と「本章のキーワード」が書いてあるので、これを読んでおくことで、内容の理解を進めやすくなると思います。
 例えば第1章の「まとめ」の一部を紹介すると、次のような感じ。
「(前略)発生要因としては規制緩和や技術革新、あるいは経済ショックによって規模の経済や範囲の経済などの実現が可能になるケースが、M&Aという取引を促すことが指摘される。M&Aの動機としては、「時間を買う効果」などそれが価値を創造するケースと、「帝国建設」など価値を棄損してしまうケースに分けて説明する。M&Aの評価方法に関しては、イベント・スタディとパフォーマンス・スタディの2つについて解説する。」
 またM&Aの発生要因については、次の「5つのピストン」が提唱されているそうです。
1)規制と政治の改革
2)技術革新
3)金融市場の変動(株価高騰など)
4)経営者の役割(経営危機など)
5)規模拡大と事業の絞り込み(リフォーカス)
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 そして第2章からは、具体例での分析・評価が始まります。
【第Ⅰ部 戦前・戦時期のM&A】の「第2章 紡績大合同」では、鐘紡、および東洋紡績設立と大日本紡績設立の大型合併が取り上げられていました。
 また「第3章 財閥の成長とM&A」では、財閥の成長がM&Aの遂行で成し遂げられていった事例を学ぶことができます。「まとめ」には、次のように書いてありました。
「(前略)財閥は、明治政府から払い下げを受けた事業を再生し、そこで蓄積された資本をもとに、関連産業に進出していった。そして、それら多角化された事業を管理・統制するために、持ち株会社を頂点とするコンツェルン体制を整備した。」
 さらに「第6章 戦時経済とM&A」では、メインバンクシステム、下請制などが、この時期に形成されてきたことを学ぶことができました。「まとめ」の一部を紹介すると……
「戦時期に入っても、それまでのM&Aの勢いが衰えることはなかった(国家干渉の下、むしろますます加速していった)。本章ではまず、この局面における紡績業、財閥系企業のM&Aについて確認する。次いで、戦時源流論の観点から、戦時期に形成された金融系列(メインバンクシステムの萌芽)、生産系列(下請制の萌芽)の内容、実際について検討していく。」
 ……戦時期でもM&Aは活発に行われていたんですね。
 続いて【第Ⅱ部 戦後のM&A】になると、「財閥解体」という大きな出来事について詳しく知ることが出来ます。
財閥解体の要諦は、同族家族・本社による1)資本的支配、2)人的支配、の排除にあったこと。戦後の占領政策が、その後の日本企業システムのあり方に大きな影響を与えた(安定的な株式所有構造(=株式持ち合い)、企業・銀行間の継続的取引関係(メインバンクシステム)、内部昇進者からなる取締役会、日本型雇用システム(長期雇用、年功序列、企業型組合)、競争的な寡占構造(系列)、新興企業の躍進(トヨタ、ホンダ、ソニー)など)が書いてありました。
 そして「第8章 資本自由化と大型合併、系列化」、「第9章 持株会社:経営統合と組織再編」、「第10章 会社支配権市場:敵対的買収と防衛策」、「第11章 クロスボーダーM&A」、「第12章 ゴーイングプライベート:MBOの動機と成果」では、現在でも行われているM&Aの具体例とともに、M&Aの果たしている役割などを知ることが出来ます。
『日本のM&A150年史―日本企業はどう成長してきたか』……日本企業が明治期以降の150年間に行ってきた具体的なM&Aの事例の分析・評価を通して、M&Aの経済的機能を学べるとともに、日本企業の時代的な変遷について俯瞰的に知ることが出来る本で、とても参考になりました。ビジネスマンの方は、ぜひ読んでみてください☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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