『進化生物学者、身近な生きものの起源をたどる』2023/10/19
長谷川 政美 (著)
身近な生きもの、なじみ深い生きものがどのように進化してきたかについて、最新研究を踏まえながら解説してくれる本で、内容は次の通りです。
第1章 身近な動物たちの起源
第2章 植物とそれに依存する生き物たち
第3章 大繁栄する昆虫たち
第4章 進化する進化生物学
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冒頭にはたっぷり24ページのフルカラー写真で、本書オリジナルの「系統樹マンダラ」と動物写真が掲載されています。
「まえがき」には、次のように書いてありました。
「およそ38億年前に生きていた「LUCA(Last Universal Common Ancestor)」と呼ばれる共通祖先から出発した進化によって、多様な生物たちで満ちあふれる現在の地球が生まれた。
ルカという共通祖先から出発し、枝分かれを繰り返しながら、多様な生き物たちが進化してきたのだ。
このような進化の歴史は、「系統樹」というかたちで表現される。近年では遺伝子の実体であるDNAの塩基配列の情報を使って系統樹が描かれるようになってきた。
本書では、私が身近な場所や世界各地でこれまで撮りためてきた写真を中心にして、それにまつわる生き物たちの進化に関するよもやま話をまとめたものである。」
そして「第1章は 身近な動物たちの起源」では、イヌやネコ、ウマなど身近な動物たちの起源について多くの解説がありました。
イヌは正式にはハイイロオオカミの亜種で、イヌ科には、オオカミとイヌをはじめ、タヌキやキツネも含まれるそうです。
ハイイロオオカミはユーラシア大陸全域から北アメリカまで広く分布していますが、その分布のなかのどこでイヌが進化したかというと……なんとその手がかりは日本にあったようです。すでに絶滅したニホンオオカミ9個体の全ゲノム解析から、世界中のハイイロオオカミのなかで、ニホンオオカミがイヌにもっとも遺伝的に近いことが明らかになったのです。
……え? 最初のイヌは日本で生まれたの? と思ってしまいましたが、そうではないようで、次のように書いてありました。
「この結果は、イヌの起源が日本だったということを示すわけではない。たぶん東アジアにいたハイイロオオカミの集団からイヌ系統が生まれ、この集団あるいは近縁な集団が日本に渡ってニホンオオカミになったのだろう。東アジアの大陸にいた祖先集団はその後に絶滅したと考えられる。
大陸ではさまざまな地域集団の交流が盛んであり、集団の遺伝的な構成は変化するが、日本のようにある程度隔離された地域では、古い集団がそのまま残りやすいのである。」
……なるほど、そういうことですか。
そして、とても面白く思ったのが「第2章 植物とそれに依存する生き物たち」。ここでは、植物たちが地球環境を大きく変えてきたことが、次のように詳しく紹介されていました。
「最初に陸上に進出した植物であるコケ類は、地面を覆うように育つことによって光を確保した。ところが、他の植物に覆われると光を浴びられなくなってしまうので、地面から立ち上がって垂直方向に伸びることによる、太陽光をめぐる競争が激化した。(中略)
維管束は重力に逆らって植物体を立ち上がらせ、植物体全体に水や栄養を運ぶ。これによって植物は高く伸びて大型化できるようになった。」
……これらの高い樹木の出現で、昆虫や鳥類が空を飛ぶ意味が生じ、三次元の豊かな生態系が生まれ、霊長類の進化も森林の発展によって可能になったそうです。
ところがこの植物が大きくなるための仕組みは、やがて地球環境に次のような影響も及ぼすことになりました。
「巨大な樹木が垂直に伸びるためには、それを支えるための強固な幹が必要で、現在の樹木ではリグニンが幹の強度の基になっている。(中略)
リグニンで強化された幹をもった巨木は、石炭紀には40メートルの高さに達していた。そのような巨木もいずれ寿命がくれば枯れて倒れてしまう。ところが、その当時の生物の中にはリグニンを分解できるものがいなかった。(中略)
このような状況は生態的に大きな問題を引き起こした。植物は光合成を行うことによって二酸化炭素を消費して酸素を放出する。逆に、動物や菌類などが植物を分解する過程で酸素が消費されて二酸化炭素が放出される。ところが、この分解過程が働かないために、大気中に酸素がどんどんたまっていった。デボン紀の中頃から石炭紀を通じて、大気中の酸素濃度は上昇を続けた。」
……それでも、およそ3億年前に菌類のなかからリグニンを分解するものが現れて、この状況が一変したそうです。
「リグニン分解能の進化により、ペルム紀(2億9900万~2億5200万年前)になると、枯れた巨木の分解が次第に進むようになった。これにより、石炭紀のように枯れた木がそのまま地中に埋もれて石炭になってしまうのではなく、分解された物質を次の世代の生き物が利用できるようになった。物質循環が起こるようになったのである。」
……それは良かった、と思ったのですが……
「木の分解は酸素を消費して二酸化炭素を生み出す。そのために、ペルム紀の後半から地球大気の酸素濃度は減少し始めた。(中略)ジュラ紀(2億100万~1億4500万年前)には12パーセントにまで極端に減少してしまった。
われわれ哺乳類の祖先である単弓類は、まだ酸素が豊富だったペルム紀の前半に繁栄した。その時代、酸素分圧の割合は30パーセントにも達した。ところが、ペルム紀末から三畳紀にかけて酸素濃度が減少すると、高酸素濃度に適応した単弓類にとって生きにくい時代になり、単弓類は次々に絶滅してしまった。衰退していく単弓類に代わって登場したのが恐竜であった。」
……あらら、そうだったんですか。恐竜や鳥類は呼吸効率が良かったので、酸素が減少していく環境では、単弓類との競争で圧倒的に有利だったそうです。
その後、白亜紀後半には酸素濃度が現在と変わらない状態まで戻り、脳が進化してきた哺乳類は、非鳥恐竜が絶滅した後に繁栄を迎えることになるのだとか。
……人間だけでなく、植物や動物も「地球環境」を大幅に変えてきたんですね……。
本書では、この他にも昆虫などの進化や進化生物学に関する興味深いさまざまな情報を知ることが出来ました。
『進化生物学者、身近な生きものの起源をたどる』……イヌやネコ、植物など、身近ないきものを題材に、進化について学ぶことが出来る本で、とても参考になりました。みなさんも、ぜひ読んでみてください☆
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