『あなたと日本の防衛を考えたい (日経プレミアシリーズ)』2023/4/6
日本経済新聞社政治・外交グループ (編集)

 無人のドローンが都市を襲う。人工衛星がハッキングされる……ウクライナ侵攻ではSF小説さながらの事態が現実となりました。その一方で、戦後77年、米軍に依存した日本の自衛隊は「弾薬がない」「戦闘機が飛ばない」「隊舎はボロボロ」の三重苦に陥っています。
 激動する世界と日本の安全保障の「いま」に迫っている本で、内容は次の通りです。
第1章 プーチンが招いた新しい戦争
「たかが気球」の落とし穴 / 新たな戦争は「武力以外が8割」/ なぜ「宇宙」が重要になるのか / 机上演習「26年 中国が攻撃仕掛ける」 他
第2章 戦後安保は国を守れるか
使われないスーパーコンピューター / 海上保安庁が戦えないわけ / 「共食い」する戦闘機 / 建設国債が護衛艦建造に使えなかった理由 他
第3章 国家安保戦略を読み解く
点検・安保3文書 / 現代化を急ぐ日米同盟 / 「統合抑止」の次の段階とは / 「宇宙」も米国が守る 他
第4章 新戦略の先へ「私の提言」
「反撃能力 相手負荷高める運用に」折木良一氏 / 「自治体調整が急所」兼原信克氏 / 「細部こそ日米協力の要点になる」宮家邦彦氏 / 「装備品の稼働率 先行して確保を」黒江哲郎氏 / 「海保の防衛任務検討のとき」松田康博氏 / 「有事の指揮移行 円滑さ不可欠」高橋杉雄氏 / 「安全のコスト 再考が前提」河野龍太郎氏 / 「反撃能力 意思決定の備えが肝」島田和久氏 他
第5章 一目で分かる重要文書
防衛力に関する有識者会議の報告書 / 安保関連3文書の要旨 / 日米首脳共同声明
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「はじめに」には、次のように書いてありました。
「中国が米国の覇権に挑み、ロシアはウクライナを侵略した。」
「周りには台湾への武力統一を否定しない中国や核・ミサイル開発を進める北朝鮮がある。環境を考えれば、国家として抑止力の強化に取り組むのは当然である。」
 ……その通りだと思います。
「第1章 プーチンが招いた新しい戦争」では、ウクライナの戦場は事実上の「無人機の実験場」になっているとか、AIや量子などを軍事領域で利用する動きが広がっているとかいうことが紹介されていました。
 また「2022年2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻は、その40日ほど前に「開戦」していた。」とあり、1月から、ロシアによる大規模サイバー攻撃が始まり、ウクライナ政府機関や民間銀行が標的になった他、侵攻前日の23日には、重要インフラが狙われ、衛星通信が機能しなくなったそうです。次のように書いてありました。
「物理とサイバー攻撃を組み合わせて対象の機能低下や社会の混乱を起こそうとしている。」
「地上戦の戦況を左右する攻防が宇宙とサイバー空間で展開される――。世界が直面する現代戦の姿だ。」
 ……TVに映し出される、ロシアの戦車やミサイルがウクライナの街を破壊している画像にはもちろん恐怖を覚えますが、もしかしたらサイバー空間への攻撃の方が、国民全体に幅広くダメージを与えられるのかもしれません。
 そして「第2章 戦後安保は国を守れるか」、「第3章 国家安保戦略を読み解く」では、防衛省の全装備品のうち機能するのは5割(整備中や整備待ちがとても多い)とか、自衛隊施設の老朽化が全国的に進んでいるとかいうことが書いてあり、日本の安全保障には心配な面が多々あるようでした。
 そして「第4章 新戦略の先へ「私の提言」」や、「第5章 一目で分かる重要文書」では、日本の防衛をどうすべきかに関する提言などが書いてあり、とても妥当な意見が多かったような気がします。
 その中の「防衛力に関する有識者会議の報告書」には、とても重要だと思えることがまとめて書いてあったので、ちょっと長いですが、以下にその一部を紹介します。
「(前略)防衛省は防衛力の抜本的強化の7つの柱として(1)スタンド・オフ防衛能力(2)総合ミサイル防衛能力(3)無人アセット防衛能力(4)領域横断作戦能力(5)指揮統制・情報関連機能(6)機動展開能力(7)持続性・強靭性--を掲げており、上記の戦略性の観点も踏まえつつ、これらを速やかに実行することが不可欠だ。」
「日本は工廠を持っておらず、自衛隊のニーズ(需要)に従って防衛装備品の研究開発から製造、修理、さらに補給まで、実際に担っているのは民間の防衛産業だ。その意味で、防衛産業は防衛力そのものといえる。(中略)
 防衛装備品の移転に課している防衛装備移転三原則および同運用指針などによる制約をできる限り取り除き、日本の優れた装備品などを積極的に他国に移転できるようにするなど防衛産業が行う投資を回収できるようにし、少なくとも防衛産業を持続可能なものとしなければならない。」
「(前略)先端的で原理的な技術はほとんどが民生でも安全保障でも、いずれにも活用できるマルチユースだ。言い換えれば、民生用基礎技術、安全保障用の基礎技術といった区別は実際には不可能になってきている。
 また、宇宙、サイバー、人工知能(AI)、量子コンピューティング、半導体など最先端の科学技術は経済発展の基盤と同時に防衛力の基盤にもなっている。だからこそ、先端技術への国家投資は総合的な防衛体制の強化だけでなく経済力の強化という観点からも重要だ。安全保障上の技術にとどまることなく研究開発を推進し、それをさらに社会で活用し、市場化するというイノベーションや産業構造の転換が経済力を強化し、経済力が研究開発につながっていくという好循環を目指すべきだ。」
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 ……同感です。宇宙、サイバー、人工知能(AI)、量子コンピューティング、半導体など最先端の科学技術は、間違いなく戦争でも重要な技術になるものですが、残念ながらどれも進歩が速すぎて陳腐化が激しいもの。これにうまく対応する現実的な方法は、「民間」での活用だと思います。いつでも「軍事転用」できる技術を「民間で利用する」方法で、どんどん機器・技術の技能を「実社会で利用しつつ更新していく」べきではないでしょうか。具体的には、軍事転用できるほど搭載能力・機動力・耐久性に優れたドローンを商品配送用に利用するとか、サーバー攻撃元をつきとめて必要なら反撃できるほど技能の高い技術者に、民間のコンピュータ部門で活躍してもらうとか……。
 もちろんそのためには、豊富な知識・高い技能を持つ人材を育成しなければならないと思います。「国家防衛戦略」にも、次のように書いてありました。
「質の高い人材を必要数確保するため、募集能力の一層の強化を図る。定年年齢をさらに引き上げるとともに退職する自衛官の再任用を拡大する。サイバー領域などの専門的な知識・技能を有する民間人を含めた幅広い層から人材確保を推進する。」
 また防衛大学校に「サイバー学科」が新設されるそうです。彼らの活躍に期待したいと思います。
 ところで米国には、「一般大学に通いながら軍の将校を養成するプログラムを受けられる「予備役将校訓練課程(ROTC)」という制度」があるそうで、このROTCは全米の1000以上の大学などで提供され、学費を補助しているようです。宇宙、サイバー、人工知能(AI)、量子コンピューティング、半導体など、軍事的にも重要な技術に関しては、日本でも「人材育成」のために、このような制度を導入するべきなのかもしれないとも思いました。
 平和憲法を持つ日本は、国際協調による問題の平和的解決を原則とし、友好国との同盟関係を維持することが大事だと思います。そのためには、「いざとなるとき頼りになる」国であることも重要で、少なくとも友好国の平均以上の軍事力(経済力に見合う軍事力)がない限り、同盟国から見限られてしまいかねません。「いざというとき自分で自分を守る」国になる(する)ため、どうすべきか、今後も考えていきたいと思います。
『あなたと日本の防衛を考えたい』……日本の防衛を考えるために、客観的・具体的な事例や意見をまとめて紹介(解説)してくれる本でした。とても参考になり、また考えさせられたので、みなさんもぜひ読んでみてください☆
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