『宇宙ベンチャーの時代~経営の視点で読む宇宙開発 (光文社新書 1246)』2023/3/15
小松 伸多佳 (著), 後藤大亮 (著)

 宇宙開発の分野はこれまで政府が主導してきましたが、今や民間企業がイニシアティブをとるビジネスとして急速に生まれ変わりつつあります。なぜ、民間宇宙産業が活況を呈しているのか……ベンチャー・キャピタリストの小松さんとJAXAエンジニアの後藤さんが「宇宙ビジネスの展望」を考察している本で、内容は次の通りです。
はじめに
【第一章】宇宙ビジネス概観
【第二章】3つの導線
【第三章】3つの革新
【第四章】宇宙ビジネスの注目8分野
【第五章】政府事業から民間商業へ
【第六章】スペースXが「宇宙ベンチャーの雄」となりえた理由
【第七章】高い株価
【第八章】動く日本
【第九章】リスクとどう向き合うか
おわりに
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「第一章 宇宙ビジネス概観」には、宇宙ビジネスをめぐって、驚くようなことが次々に起こっていることを知りました。そのごく一部を以下に紹介します。
・2010年創業のプラネタリー・リソーシズ社(米)の「小惑星丸ごとお持ち帰り計画」
・月の土地が1万円以下で売り出されている(ルナエンバシー・ジャパン社)。
・レラティビティ・スペース社(米)は3Dプリンタでロケットを作ることを標榜。
・ビゲロウ・エアロスペース社の宇宙ホテルの試験機が、ISSに据え付けられて2016年から宇宙空間を飛んでいる。
 など。
 この章の終わりには、次のように書いてありました。
「最後に、ブライス・テック社のレポートによると宇宙経済全体に占める民間セクターの割合は世界の宇宙経済全体51.2兆円(3659億ドル)の4分の3に達しています。」
 ……もう4分の3が民間なんですね!
 そして個人的に最も興味津々だったのは、「第三章 3つの革新」の「惑星コンステレーション(多数の衛星を、同一または異質の軌道に投入し、互いに協調させながら、一定のミッション(任務)を遂行する運用形態)」。次のように書いてありました。
「例えば30基の衛星を低軌道に投入すれば、個々の衛星は移動し続けていても、(軌道の選び方によっては)20分に1度くらいの頻度で、衛星のうち1基が日本の上空を通過する、という状況を作りだすことができます。」
 ……なるほど、確かに。
 そして「小型惑星コンステレーションの強み」には、次のようなものがあるそうです。
1)コストの低減(大量生産)
2)技術的陳腐化を防ぎやすい
3)地上をまんべんなくカバーできる
4)サービス対象地域を柔軟に選択できる
5)通信遅延が少ない
6)安全保障上の耐性が高い
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 この小型惑星コンステレーションに関連して、「第四章 宇宙ビジネスの注目8分野」には、次のようなことが書いてありました。
「メガ通信コンステレーションの威力は、ウクライナ戦争のときにイーロン・マスク氏が見せた、魔法のようなエピソードを思い出していただければご納得いただけるでしょう。ロシアの攻撃で、首都キーウの放送局アンテナなどを破壊されたウクライナのフョードロフ副首相は、2022年2月26日にイーロン・マスク氏に助けを求めました。マスク氏は、既に2000機以上に達していたメガ通信コンステレーション「スターリンク」をウクライナに開放することを即決し、10時間後には開通を宣言しました。この通信手段の確保が、その後のウクライナ軍の善戦につながったことはご存じの通りです。」
 ……そんなことがあったんですか! ……確かに戦争では相手国の通信網を混乱させるのは基本戦術の一つですよね……現在でもウクライナの大統領がSNSを使ったとても効果的な21世紀的戦争への取り組み(悲惨な現状を画像で見せることで国際的な支援を要請するなど)が出来るのは、このメガ通信コンステレーションのおかげかもしれません。
「機能停止させにくいメガ通信コンステレーションは、困難や脅威により柔軟に対応可能」なので、安全保障のためにも日本もこれを構築した方がいいのかも。
 この章では、他にも宇宙出張とか宇宙エレベータなど、次のような未来的な宇宙ビジネス計画(構想?)があることを知ることができました。
・宇宙出張
「東京からニューヨークに宇宙空間を通って飛行すると、わずか1時間程度で到着してしまうことが知られています。要は、大陸間弾道ミサイルに乗って出張するイメージです。
 これを使えば、世界のどの都市にでも日帰り出張が可能になります。」
・宇宙エレベータ
「静止軌道上に大型の宇宙ステーションを建造し、地球の自転と同期させて飛ばします。そこからカーボン・ナノチューブ製のケーブルを地上まで垂らして固定します。さらに釣り合いを保つために、ステーションから地上とは反対の宇宙空間に、倍の距離のケーブルを張って重りをつけます。これで宇宙ステーションは安定しますので、地上とステーションを結ぶケーブルにエレベータを取り付ければ、宇宙エレベータの完成です。」
 ……いつか実現するといいですね!
 ところで最近流行(?)の小型衛星は、寿命が3~5年(大型衛星は15年)だそうです。「小型惑星コンステレーション」はとても実用的でいいとは思うのですが……スペース・デブリ問題が多発しそうですね……。
 この問題については、アストロスケールホールディングス社という日本の会社が対処に動き出しているようです。その「日本発スペース・デブリ除去ビジネス」とは、デブリ化を想定して、あらかじめ打ち上げ前にマグネット式ドッキング・プレートを衛星側に取り付けておき、デブリ化したときは、同社のデブリ除去衛星が接近して、磁力でドッキングした後、高度を下げて大気圏で燃やすというものだそうです。
 また3~5年という小型衛星の寿命は燃料の量的限界によるものなので、燃料を積んだ「延命衛星」が宇宙で対象の衛星に抱き着いて一体化し、衛星を延命化するというビジネスも考えられているようです。
 さらに「第九章 リスクとどう向き合うか」では、「宇宙太陽光発電(SSPS)構想」という壮大な計画があることが紹介されていました。
「軌道上に例えば一辺が2km四方の巨大な太陽光発電パネルを浮かべます。(中略)この太陽光パネルで発電し、得られた電力を、一端マイクロ波(またはレーザー光線)に変換して、宇宙から地上まで無線伝送します。次いで、建造された直径4kmのレクテナ(アンテナ)で、送られてきたエネルギーを集めて再び電力に変換する仕組みです」
 ……なるほど。この大きな太陽光発電パネルがあると、衛星の修理やデブリ除去の時にも使えそうな気がします。この本でも、ここに「宇宙ステーションや宇宙ホテルを併設」、「衛星放出などの軌道上サービスの拠点」、「実験施設や宇宙プロダクトの量産工場」、「月や火星へ行く宇宙機のスペースポート」、さらには「宇宙エレベータと一体化」するなどの活用案が書いてありました。
 この他にも「第五章 政府事業から民間商業へ」では、NASAがCOTS(商業軌道輸送サービス)などを使って、いかに宇宙関連民間企業を育ててきたかを知ることが出来ましたし、「第六章 スペースXが「宇宙ベンチャーの雄」となりえた理由」では、アメリカでは、日本より失敗が許される自由度が高いことや、スペースXのイーロン・マスク氏の巧みな経営手腕などが紹介されていて、とても参考になりました。
 そして「第八章 動く日本」では、日本の宇宙ビジネスへの取り組みも紹介されています。
 日本の宇宙ベンチャーの支援策としては、S-NET(内閣府宇宙開発戦略推進事務局のネットワーキング活動)や、S-Booster(宇宙を活用したビジネスアイデアコンテスト)、宇宙産業への投融資政策などがあるようです。
 またJAXAの取り組みとしては、J-SPARC(JAXAが宇宙ベンチャーと共同で行う研究開発プログラム)や、JAXA職員の副業解禁(宇宙ベンチャーに副業として出向)、JAXAベンチャー(職員の起業を支援)など、とても実践的な活動をしていることが紹介されていました。
 これらの成果があがったのか、「日本の宇宙ベンチャーの社数は、数年前までは20社程度で数えられるくらいでしたが、ここ数年で急拡大して、現在では100社を超えたとも言われています。」だそうです。
 宇宙産業は、今後、ビジネスとして有望なだけでなく、安全保障分野でも欠かせない技術になると思うので、ぜひ日本の基幹産業の一つに育てていって欲しいと思います。
 とても勉強になる『宇宙ベンチャーの時代~経営の視点で読む宇宙開発』でした。みなさんも、ぜひ読んでみてださい☆
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