『ひと目でわかる 哲学のしくみとはたらき図鑑 (イラスト授業シリーズ)』2022/10/27
川口 茂雄 (監修), 夏井 幸子 (翻訳)

 古典から近現代までの哲学の基礎を一冊に……自然科学と融合していた古代ギリシアを中心とする哲学の黎明期から、美学・認識論・倫理学・論理学などに体系化されていく近現代にいたるまでのおもな理論・思想を、豊富なイラストとともに簡潔に解説してくれるビジュアル図鑑で、主な内容は次の通りです。
第1章 哲学の創設
第2章 分析哲学
第3章 大陸哲学
第4章 心の哲学
第5章 倫理学
第6章 政治哲学
第7章 論理学
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「はじめに」には、本書の概要が次のように紹介されていました。
「第1章では、紀元前6世紀のタレスから19世紀末のニーチェに至る形而上学と認識論の歴史をたどる。第2、3章では20世紀の思潮を追いながら、並行して発展を遂げた分析哲学と大陸哲学に焦点を当てる。第4章では、心の哲学、第5、6章では倫理学と政治哲学をそれぞれ取り上げ、最終章の第7章では、論理学を取り扱う。」

 とても楽しく読めたのが、「第1章 哲学の創設」。ここではソクラテスやプラトン、アリストテレスからデカルト、カント、ヘーゲル、マルクスなどの超有名な哲学者の理論や思想を、カラフルなイラストでざっと復習できるのです。学生時代に倫理学などの授業で学んだことがある理論ばかりですが、すっかり忘れかけていたので(苦笑)、ここで復習できてありがたかったです。これらの「古典」は、「教養」として覚えておいて損はないものですし、何かを深く考えるときの基礎にもなると思います。
 この章で「へえー」と感じたのは、オランダ人哲学者バルーフ・スピノザの思想。彼は「実体はひとつしかありえず、その実体に精神の属性と物体の属性の2つがある」と主張したそうです。学生時代には、よく分からないままスルーしてしまっていましたが、「スピノザにとって神は万物に存在し、無限の属性をもつ」そうです。……これって、私たち日本人には、とても共感できる考え方のように思えました。なにしろ私たちはロボットにも名前をつけたくなる民族ですから(笑)。ただしスピノザは「岩でさえ精神を備えている」と唱えているそうで……そこまでいくとちょっと行き過ぎのような……でもこのように身の回りのいろんなものに神(精神)があるとすることは、「和の心」に通じるような気がしました。(なお、残念ながらこの『ひと目でわかる 哲学のしくみとはたらき図鑑』は西洋哲学に偏っていて、神道や禅などの思想は取り入れられていません。)
「第2章 分析哲学」は、「言語を論理的に分析することで哲学的な問題を解決することを目指した」もので、ラッセルやヴィトゲンシュタインなどの思想が紹介されていましたが……ちょっと難解な感じで、残念ながらよく分かりませんでした……。
「第3章 大陸哲学」は、「生そのものの本性――人間として生きることはどういうことか――の探求に焦点を合わせた」ものだそうで、ヴォルテール、ルソー、マルクス、カント、ヘーゲル、ショーペンハウアーなどの思想が紹介されていました。これらもかつて倫理学で一部を学んだことがあるので、ここで総合的に復習できて良かったと感じました。
「第4章 心の哲学」では、後に心理学につながっていく行動主義や、人工知能(AI)につながっていく機能主義(チューリングテスト)・生物学的自然主義(中国の部屋)などがイラストで分かりやすく概説されていて、「心の哲学」として俯瞰的に学べて、とても参考になりました。
 そして「第5章 倫理学」、「第6章 政治哲学」では、道徳や生命倫理、政治(所有権、同意と義務、自由、客観的な政治判断)などについての哲学的な考え方が、それぞれ紹介されていくのですが……読み進めていくうちに、「道徳的に正しいとはどういうことか?」「どんな政治が最良なのか?」について考えさせられ、なんだかだんだん分からなくなっていくのでした……。
 こんなに一気に「哲学した」のは初めてで、読み終わったときには、なんだか呆然としてしまいましたが(苦笑)、この本はときどき読み直すと、自分なりにさまざまなことを「深く考える」ための手がかりにできるような気がします。
 哲学的教養を高められる(気がする)『ひと目でわかる 哲学のしくみとはたらき図鑑』でした。読むにはかなりハードルが高い「哲学」を、カラフルなイラスト&簡潔な記事で、気軽に読める形式にまとめられているので、哲学に興味がある方はもちろん、自らの教養を高めたい方も、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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