『なぜ日本からGAFAは生まれないのか (光文社新書)』2022/5/17
山根 節 (著), 牟田 陽子 (著)

 これからの日本に、GAFAのような企業が誕生する可能性は皆無なのか? アップル、グーグル(アルファベット)、フェイスブック(メタ)、アマゾン各社の成長の軌跡を辿りながら、その答えを探っている本で、低成長の迷宮から抜け出せない日本に希望の灯をともす企業論です。
 かつて「Japan as No.1」だった時もあった日本ですが、今はだんぜん「GAFA as No.1」に……なぜそうなってしまったのか? 「終章:GAFAにあって日本企業にないもの」にその概要がありましたので、ちょっと長いですが以下に紹介します。
「こういう天才たち(注:アップルのジョブズ、グーグルの天才たち、フェイスブックのザック、アマゾンのベゾス)は、産業革命の申し子たちとは真逆の人たちである。産業革命に強かった文化。規律重視、時間厳守、整然とした組織的協調、号令一下で正確な反復作業を長時間続ける忍耐強さ……。これと真逆の価値観。ブッ飛んだ構想力。組織ルールや規律にとらわれない柔軟な発想と強い自己主張、何でも可能にするワガママ行動、乗れば徹夜も辞さない突破力……。こうした資質の人々こそ、予想のつかない未来を切り拓く革命のリーダーたちである。
 そして彼らを自由奔放な提案競争に駆り立てる環境(エコシステム)を作った国や地域が、情報革命の勝利者になることができる。それがシリコンバレーであり、その対極にいるのが日本だ。」
 日本は産業革命後の第二の波(時間厳守・服従・機械的反復作業が重要)では強みを発揮しましたが、現在の情報革命後の第三の波(イノベーション・スピードが重要)には対応できていない、ということなのです。次のようにも書いてありました。
「日本は「ほうれんそう」を求めるコンセンサス経営の国である。しかし既成概念を超越したイノベーションとは、既成概念になじんだ人には説明が難しいものだ。」
 ……確かにそうですね。
 それに対してGAFAを生んだアメリカ、特にシリコンバレーには、莫大な資金のかかるビジネスが比較的容易に立ち上がる環境がある上に、たとえ失敗してもリスクは承知の上として非難されることが少なく、何度でも挑戦できる風土があるのです。
 ……この指摘には納得できるものがありました。日本には「出る釘を打つ」という悪い癖があるように感じていましたが、これは実は産業革命時代には、むしろ「適合的にうまく機能」するものだったのかもしれません。今でも「製造部門」では適合しているのだと思います。ただ現在、最も重要になっている「企画部門」に求められる創造・革新性には、残念ながら適合していないのでしょう。
 今後の日本には、この「両方」が必要になるのだと思います。そのためには教育制度などを変えていくべきなのかもしれません。
 そのヒントとなりそうだと思えたのが、「終章」で紹介されていた、次のようなスタンフォード大学の話。
「(前略)シリコンバレーには夥しい数のベンチャーが立ち上がるインフラがある。それを最初に創ったのが、スタンフォード大学である。」
 実は80年ほど前、スタンフォードは二流の大学だったそうです。そんな事情を変えたいと、同校の教授が大学院の学生二人に起業を勧め、それが最初の成功例、ヒューレット・パッカード社(HP)になったのだとか。……これが後々、GAFAへとつながっていくんですね……。
 日本にも優秀な学生はたくさんいるのですから、日本にも、このような環境を作っていくことが重要なのではないでしょうか。
 実はすでにソニーが、このような試みを行っているようです。ソニーには、起業志望向けの学生向けのインターンシップ制度あり、起業に必要なトレーニング(東大や東工大などともコラボしている)を実施しているそうです。
 また日本を代表する大企業のトヨタも、革新的な試みをしています。ウーブン・プラネット・ホールディングスを設立して、次世代プロジェクトのスマート・シティ計画を行う「町まるごと」プラットフォーマーになる旗を掲げているのです。
「トヨタの従来のカルチャーとは隔絶した別組織で、プラットやカフナーらいわば「よそ者」に未来へのリードを託した。」と書いてありましたが……これは素晴らしい方法だと思います。革新的な試みにも、巨額の資金と人材が必要なのだし、堅実に本業を維持しつつ、未来への革新的布石も打つ、ということですよね。
 日本の産業界に再び活気を取り戻すために、何をすべきかを考えさせてくれる本でした。みなさんも、ぜひ読んでみてください☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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