『生命機械が未来を変える: 次に来るテクノロジー革命「コンバージェンス2.0」の衝撃』2022/6/21
スーザン・ホックフィールド (著), 久保尚子 (翻訳)
世界の科学技術研究のリーダーMIT(マサチューセッツ工科大学)が進める生命・機械の融合した「コンバージェンス2.0」とは? 生命の叡智を活かすテクノロジー革命の最前線を紹介してくれる本で、内容は次の通りです。
はじめに 生物学と工学のコンバージェンス
1 未来はどこから来るのか
2 エネルギー革命:ウイルスが育てるバッテリー
3 浄水革命:タンパク質マシンを水フィルターに
4 医療革命:がんを早期発見・治療できるナノ粒子
5 身体革命:脳を増強し身体の動きを取り戻す
6 食料革命:地球のすべての人々に食料を
7 コンバージェンス2.0を加速せよ
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「コンバージェンス2.0」とは、生物学と工学を集約する新たな潮流です。生命・自然と機械・人工が結ばれることにより、目を見張るテクノロジーが現れつつあります。かつて物理学と工学の融合によるコンバージェンス1.0が、エレクトロニクス&デジタル革命によって私たちの生活を一変させたように、コンバージェンス2.0もまた世界を劇的に変えていくでしょう。この本はその驚くべき成果を、MITの活動を中心に紹介してくれます。
例えば「2 エネルギー革命:ウイルスが育てるバッテリー」は、なんとM13バクテリオファージというウイルスの遺伝子を改変し、バッテリー構築に役立つ物質と結合させたもの! ……まさにウイルスが育てるバッテリーなのです。従来製品よりクリーンに作ることができ、しかも安価で効率もいいのだとか。すでにコイン電池が出来ているそうです。
この本は、このような驚きの最新技術を紹介してくれるだけでなく、この技術に関わる基礎知識も簡単に説明してくれます。とても親切で勉強にもなり……さすがMIT初の女性学長に選ばれる方は、やはり教育面でも優れているんんだなーと感心させられました。
そして「3 浄水革命:タンパク質マシンを水フィルターに」は、アクアポリンというタンパク質を利用した浄水テクノロジー。このアクアポリンチャネルは、水の原子シグネチャを識別し、水分子に特有のシグネチャを持つ分子のみを出入りできるようにしていて、これを浄水フィルターに利用するというアイデアです。次のように書いてありました。
「アクアポリンタンパク質の全アミノ酸配列を決定し、さらにタンパク質の紐がらせん状やループ状に巻き上がって砂時計のように中央部が細くくびれた形に折り畳まれることを明らかにした。砂時計の形に折り畳まれた状態の全長はちょうど細胞膜の厚みほどで、その中心に開通している孔が、細胞の内と外の間で両方向に水を運ぶための高度に選択的なチャネルとなっている。(中略)
アグレと同僚たちは、アクアポリンタンパク質を構成するアミノ酸の紐が折りたたまれると、脂質と引き合うアミノ酸は砂時計の外側にくるように(脂質性の細胞膜と相互作用するように)配置され、水と引き合うアミノ酸は砂時計の内側表面にくるように配置されることを明らかにした。(中略)
チャネルの通路の壁には負電荷と正電荷が交互に配置されていて、そのおかげで水分子が――水分子のみが――運ばれることがわかった。(中略)
アクアポリンの場合も、水分子の電荷の非対称性が重要な役割を果たす。アクアポリンの通路の内側に交互に現れる負電荷-正電荷-負電荷の壁が、水分子を1個ずつエスコートし、1秒間に30億個という驚くべき高速でチャネルを通過させる。」
……細胞はこういうタンパク質(アクアポリン)で水を出入りさせているんですね! これを浄水シートにする仕組みも意外に簡単で、特殊なポリマーで形成される脂質様膜球体を準備し、それと精製したアクアポリンを混合させると、アクアポリンが勝手に膜球体に入り込んでくれるのを利用してシート化しているそうです。……工学と生物学の融合って、凄い成果を続々と生み出しているんですね……本当にびっくりです。
さらに医療の分野では、がん細胞に遭遇したときにのみ反応するように合成されたナノ粒子をベースとしてた手軽な尿検査や、脳とつながる画期的な義肢(今後の外科手術は、こういう義肢との接続を前提としたものになるのかもしれません)なども。
また食料危機に対応できる望ましい遺伝的形質をもつ植物変異株を、迅速に見つけ出す高速フェノタイピング(植物栽培ハウス)など……MITでは、未来がどんどん精力的に手繰り寄せられていることをひしひしと感じさせてくれました。
そして最終章の「7 コンバージェンス2.0を加速せよ」では、ぬかりなく次のような提言もされています。
「20世紀のコンバージェンス1.0で得た経験から、私たちはすでに何が有効なのかを知っている。学際的で多施設横断型のプロジェクトや教育を奨励するような連邦政府による基礎研究への投資を強化すること。新しいアイデアの市場化を加速させるようなテクノロジー移転の実践方法をデザインすること。長期にわたる資本集約的な産業への投資を促すような財政政策を立案すること。そして、世界中の才能をできる限り引きつける研究運営を維持できるような移民政策を施行することだ。」
なおMITでは学部再編ではなく、学部と学部をつなぐ研究室やセンターを新たに設立。どの学部にもできる限り2つの拠点(大学構内の学部棟と研究センター内など)をもたせるようにしているそうです。
『生命機械が未来を変える: 次に来るテクノロジー革命「コンバージェンス2.0」の衝撃』……まさに衝撃的なほど未来感のある技術をたくさん紹介してもらえました。わくわくしてしまうような最新研究を知ることが出来るだけでなく、それに関わる基礎知識の解説もあるので、とても勉強になります。みなさんも、ぜひ読んでみてください。お勧めです☆
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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