『時間はどこから来て、なぜ流れるのか? 最新物理学が解く時空・宇宙・意識の「謎」 (ブルーバックス) 』2020/1/15
吉田 伸夫 (著)
時間とは何か? 時は本当に過去から未来へ流れているのか? 「時間が経つ」とはどういう現象なのか? これらの疑問に、相対性理論、宇宙論、熱力学、量子論、さらには神経科学などの科学の視点から迫っていく本で、内容は次の通りです。
はじめに――時の流れとは
《第I部 現在のない世界》
第1章 時間はどこにあるのか
第2章 過去・現在・未来の区分は確実か
第3章 ウラシマ効果とは何か
《第II部 時間の謎を解明する》
第4章 時間はなぜ向きを持つか
第5章 「未来」は決定されているのか
第6章 タイムパラドクスは起きるか
第7章 時間はなぜ流れる(ように感じられる)のか
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第I部は、時間の流れが物理的には存在しないことを明確にしていて、第II部はそれを踏まえたうえで、なぜ時間が流れるように感じられるかを考察しています……正直に言って、かなり専門的な話が多くて、一度読んだだけでは到底理解できそうにありませんでした……(涙)。
なかでも脳内が「?」でいっぱいになってしまったのが、ミンコフスキーの「時空」の話。「時間と空間を併せた世界では、回り道をした方が経過時間が短くなる。これは、ミンコフスキーの幾何学では、長さを定義するのに時間部分と空間部分の差を取るせいである。空間で遠回りすると、道のりはかえって短くなる。」ということなのですが……うーーん??? でも、これが分かると「ウラシマ効果(いったん離れ離れになった後に再会したとき、それぞれが体験した時間の長さが異なること)」が理解できるようなのです。ウラシマ効果は、「すでに多くの実験で確認」されているそうですが、なんだか信じがたいことですね……。
という感じで、理解できなかったことも多かったのですが、なんとなく理解できた(ような気がする)こともあり、とても読み応えがあって面白い本でもありました。
特に面白かったのは、「第II部 時間の謎を解明する」以降。例えば、「第4章 時間はなぜ向きを持つか」には、次のような記述がありました。
「時間には「過去から未来へ」という方向性があるが、これは、時間がこの向きに流れるからではなく、宇宙の時間的な端に相当するビッグバンが特殊な状態だった結果である。ビッグバンは、きわめて整然とした均一な高温状態だった。この状態から空間が膨張すると、ビッグバンから遠ざかる向きに不可逆変化が起きるので、時間に方向性が生じる。」
「時間そのものに過去から未来へと向かう性質があるのではなく、「ビッグバンから遠ざかる向き」として時間の方向性が定まったのである。」
「ビッグバンがほとんど揺らぎのない状態だったため、そこから重力によって引き起こされる変動は、必然的に、揺らぎを増す方向に制限される。その結果、ビッグバンから「時間の物差し」で測って遠くなるにつれて、薄く広がっていた物質粒子が凝集し、ほとんど真空となる宇宙空間の所々に天体が点在する状況へと変わっていく。」
要するに、「時間に方向性があるように見えるのは、時間軸の一方の端であるビッグバンがきわめて整然とした特殊な状況だからにすぎない。したがって、「物理現象は、時間の流れに従った順番で決まっていく」という原則など、もともと存在しないのである。」ということなのです。
……そうだったんだ……乱暴にまとめてしまうと、最初が「すごく整然としていた」ために、「乱雑になる方向にしか変われない」ことになり、そのせいで「時間に方向があるように見えている」だけだというのです。
また「時間が流れている」のも、私たち人間がそう感じているだけで、物理的に流れているわけではないそうです。
「第7章 時間はなぜ流れる(ように感じられる)のか」には次のように書いてありました。
「時間は物理的に流れるのではない。では、なぜ流れるように感じられるかというと、人間が時間経過を意識する際に、しばしば順序を入れ替えたり因果関係を捏造したりしながら、流れがあるかのように内容を再構成するからである。」
「時間の流れは、物理的に存在するのではない。心の中で流れるのである。」
そうか……時間は「心の中で流れている」だけなんですね……。うーーん、でも、やっぱり「流れている」としか思えないのですが……。
時間について、最新の物理学などの知見をもとに、総合的に深く考察している本でした。時間をテーマにしたものとしては、これまでも哲学的な考察などを読んだことがありましたが、この本は、科学的知見をもとに考察しているので、他の本よりも理解しやすかったような気がします。
「時間」に興味のある方は、ぜひ読んでみてください☆
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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