『空気と人類 ―いかに〈気体〉を発見し、手なずけてきたか』2020/12/17
サム・キーン (著), 寒川均 (翻訳)

 世界を変え、歴史を動かした「空気」の物語です。自分が吐いた息から、大気の誕生、気体の科学が農業・産業・医療・戦争にもたらした革命まで、空気と人類の関係をじっくり紹介してくれます。内容は次の通りです。(なお、各章ごとに「幕間」があり、「爆発する湖」などの興味深いエピソードの紹介があります)
I 空気を作る――最初の四つの大気
第1章 初期地球の大気
第2章 大気のなかの悪魔
第3章 酸素の呪いと祝福
II 大気を手なずける――人間と空気の関係
第4章 喜びガスの不思議な効能
第5章 飼いならされた混沌
第6章 空に向かって
III 未知の領域――新しい至福の地
第7章 放射性降下物の副産物
第8章 気象戦争
第9章 異星の空気をまとう
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「I 空気を作る――最初の四つの大気」では、地球の大気がどのようにできたのか、さまざまな環境下でどのようにふるまうのかを解説してくれます。
 そして「II 大気を手なずける――人間と空気の関係」では、私たちがさまざまな気体の特殊な性質を、過去数世紀にわたっていかにコントロールし、利用してきたのかを見ていきます。
 最後の「III 未知の領域――新しい至福の地」では、過去数十年でわたしたちと気体との関係がどのように発展してきたかを探り、放射能実験や気象操作、さらには太陽系外にある惑星の大気調査などを知ることができます。
 まさに『空気と人類』の歴史を、じっくり読むことが出来る本でした。459ページもある長大な本ですが、サイエンスライターの方が書いているので、意外と読みやすいと思います。
 例えば「はじめに」では、紀元前44年に元老院会議の会場で殺されたカエサルの最後の息(肺のなかを漂っていた分子の一部)が、「時間と空間の隔たりなどものともせず、いまあなたの肺の中を舞っている」という話から始まります。また「第1章 初期地球の大気」でも、セント・ヘレンズ山の大噴火のエピソードをリアルに描いていて、『空気と人類』の歴史という、あまり面白くなさそうなテーマを、いかに興味深く読ませるかに、キーンさんが気を配っていることが分かります(笑)。
「空気と人類」……水蒸気を使った気球は人類を空へと運び、蒸気機関は産業革命を起こしました。窒素を使ったアンモニア生成が農業を変え、笑気ガスは麻酔を生み、天気予報からはカオス理論が誕生。その一方で、瞬時に大量の気体を放出するニトログリセリンからはダイナマイトが、塩素ガスからは毒ガス兵器が生まれ、核兵器は放射性降下物を大気中にまき散らし、多くの人を傷つけました。
「空気」を研究することで、人類が歴史を大きく変えてきたことを詳しく教えてくれる本です。興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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