『ビジネス教養としてのアート』2020/10/16
岡田 温司 (監修), 造事務所 (著)

 アートを、経済、歴史、思想、社会、テクノロジーといった切り口から解説することで、「アートの見方」「感性を言語化する」「歴史背景」「マーケット価値」「技法」などを教えてくれる本です。
 最近、アートを学ぶビジネスマンが増えているそうです。「優れたイノベーターには、アートの素養という共通点がある」ようで、「アートの学びは緻密な観察力、理解力、共感力をつくる力などをもたらす」ということですが……子どもの頃から絵画や工作(美術)が好きで美術館にもよく行っていましたが、これがビジネス面で何か効果があったのかに関しては、それほどなかったような……としか答えられません(汗)。美術よりは読書の方が、即効性があるような気がします。でも少なくともアートは心を豊かにしてくれるものなので、学んでおいて損はありません。しかも知っていると教養ありげに見えます(笑)。
 ということで読んでみました。美術好きにとっては、すでに知っている内容がほとんどでしたが、自分の知識を再確認(更新)出来て良かったと思います。
 しかも、あまり興味がなかった「アートとお金」事情も知ることができました。例えば、ウォーホルの『キャンベル・スープの缶』32種類の販売価格は、1962年の個展では1点100ドルだったのに、1995年にニューヨーク近代美術館がこの32点を推定1500万ドルで購入したとか!
 ……こういうのって、どうなのかなーと考えさせられてしまいます。なぜならその差額の巨費は作家本人に還元されるのではなく、誰か他の人のものになるからで……あの『キャンベル・スープの缶』32点に1500万ドルもの価値を感じられない私にとっては、美術ビジネスは行き過ぎているとしか思えません。
 また2019年には話題の匿名アーティストのバンクシーさんの作品「風船と少女」が老舗オークションハウス「サザビーズ」で競売にかけられ、1億5000万円もの値段で落札された直後に、バンクシーさんが額縁にしかけていたシュレッダーによって裁断されたという事件がありましたが……美術作品はいったい誰のものなのか(作品対価は誰に支払われるものなのか)、とても考えさせられました。
 個人的には、素晴らしい美術品は美術館などで大勢が鑑賞すべきものだと思っているので、高価な美術作品を購入する気はまったくありませんが……。アートには希少価値があり、価格が天井知らずになってしまうのは仕方ないとしても、一部の作品は高価になり過ぎていると思います。
 えーと……それはともかく、この本はこういう感じの「アートの雑学」をエッセイ風に語ってくれているので、アートに興味があまりなかった方にとっても読みやすいと思います。
 例えば最初の「時代とアート作品(年表)」には、海外の作品と日本の作品が年代順に一緒に並べられているので、例えばドラクロワの『民衆を導く自由の女神』は、歌川広重の『大はしあたけの夕立』より30年近くも前の作品だったことに驚かされました(ドラクロワの方が新しいのだと勘違いしていました)。
 また「バイオ・アート」というジャンルは知らなかったので、とても興味深かったです。有名なバイオ・アートの「ヘザー・デューイ=ハグボーグ」プロジェクトは、「タバコの吸い殻などから個人のDNA情報を解析し、その人の容姿を3Dプリントした彫刻作品」だそうですが……その人間の頭部が壁に掛けられて並んでいる写真が、あまりにもリアルな「人間」で、かなり衝撃的です(狩猟された鹿の頭部の剥製(壁飾り)と同じようにも見えます……)。私自身は自分のDNAをこんな風に利用されたくありません。バイオ・アートって、どうなんでしょう……。
 この本には、このような雑学の他、「鑑賞前の基礎知識」としての技法に関する簡単な解説もあり、「ビジネス教養としてのアート」入門に適していると思います。
 アートは本物を鑑賞するのが一番ですが、現在はインターネットで名画などを自由に鑑賞することができることも、この本で紹介されていました(Web Art Galleryというサイトなど)。インターネットで名画鑑賞するのも、アートの教養を深めるのに役立つと思います。
 アートに興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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