『都市5.0 アーバン・デジタルトランスフォーメーションが日本を再興する』2020/3/24
東京都市大学 総合研究所 未来都市研究機構 (著), 葉村 真樹 (著, 編集)

 人間拡張の最大形態としての「都市」の課題を最新テクノロジーで解決し、人間中心設計によって再興していく未来に向けた考え方、それが「都市5.0」である……都市の発展の歴史を振り返り、都市の未来を考察している本です。
「都市5.0とは、IoTやAIなどのデータアナリティクス技術とヒューマン・セントリック・デザイン=人間中心設計の掛け合わせによって、黒川氏の言う「個人の都市」を実現することである。」そうで、都市5.0は、世界的な日本人建築家の黒川紀章氏の著書『都市デザイン(1965)』に書かれている都市の発展の5番目の段階を意味しています。都市はこれまで4つの発展段階を踏んできており、これから5段階目へと発展していくそうです。
1)神の都市(神殿が中心になる都市。交易活動、文字、貨幣の誕生)
2)王の都市(宮殿が中心になる都市。市民階級の発生、本の誕生)
3)商人の都市(商人が中心になる都市。ギルドの誕生、活版印刷の誕生)
4)法人の都市(工業が中心になる都市。資本主義経済、公害の出現と公衆衛生法などの「未然に防ぐための規制」、インフォメーション技術革命(ラジオ、映画、テレビ))
5)個人の都市(新たなテクノロジーによって「個人」の意識に支えられた都市)
 ……なるほど。それで、これからの都市という意味で「都市5.0」なんですね。
 この本は3部構成になっていて、第1部は「都市の歴史を紐解いて、人間にとっての都市の本質と、社会経済的な意味合いについての考察」、第2部は「都市5.0の考察(データ&分析の観点、人間中心設計の観点)」、そして第3部は「都市5.0の考察(MaaSの観点、コミュニティの観点、グリーンインフラの観点)」をテーマとしています(最後に終章もあり)。
 中心となるテーマはもちろん「都市5.0」なのですが、第1部の「都市の歴史」もとても説得力がある展開で興味深かったです。現在は「都市4.0」から「都市5.0」へ差し掛かっているところなのでしょう。
「第3章 サイバーとフィジカルが融合する時代」では、インターネットやEC、そしてスマートフォンとソーシャルメディアが、データ駆動型分権社会を引き起こしたことが語られます。
「世の中の変動を、それぞれの都市における「都市の脈動」としてリアルタイムに把握し、把握した情報に基づいてダイナミック(動的)に対応できるようなシステムを構築することができれば、自律的に都市を制御、運営することも可能になる。」
 そして、リアルタイムの都市の脈動を活用して提供されるサービスの例として、ウーバーなどのライドシェアサービスがあげられていました。
「(ライドシェアやエアビーアンドビーでは、)評価を行うのはサービスを提供する側と利用する側の双方であり、それがプラットフォーム上で完全に公開されてスコア化されている。国という中央集権型による保証ではなく、分散されたそれぞれの提供者・利用者からの評価が定量的にデータとして蓄積され、それをもとに判断して、サービスの授受が行われるのである。
 Web2.0の世界では、個々人が情報の発信能力を持ち、それが双方向、多方向へと拡散することを可能とした。その結果、そこで発信される情報=データが、あらゆる意思決定を行ううえでの材料となった。それは、硬直化した中央集権で管理統制するという形ではなく、そのシステムに参加するすべてのステークホルダーによって動的に管理されていくというものである。」
 WebやAI、そしてIoTというテクノロジーが、都市をどんどん変えているのです。
「都市にセンサーが張り巡らされれば、災害、事故、犯罪、交通混雑などのあらゆる都市問題について、未然に防いだり、被害を最小限にとどめることが可能になるだろう。」
 そして「第8章 コミュニティ創造による「個人の都市」の実現」には、次のような興味深い記事が。
「グーグルの親会社であるアルファベットが所有する都市イノベーション企業Sidewalk Labsがカナダのトロントに建設したスマートシティは、先進技術がちりばめられた未来都市のショーケースとして注目されている。」
 このSidewalk Labsのトロントでのウォーターフロント再開発計画は、1)モビリティ、2)公共空間、3)建築物および住宅、4)持続可能性、5)社会インフラ、6)デジタルイノベーションの6つの領域を、主要なイノベーション領域として提示しているのだとか。どんな都市になるのか、注目していきたいと思います。(なお、この本ではあまり言及されていませんでしたが、日本のトヨタ(TOYOTA)も、2020年1月7日に、静岡県裾野市で「ウーブン・ シティ(Woven City)」と呼ばれる実験都市を開発するプロジェクトを行うことを発表しています。こちらも大注目ですね!)
 さて、現在、日本人のなんと90%以上が「都市」に居住しているのだそうです。
 この本で、今後の都市はどうなっていくのか、あるべき姿はどのようなものかを考える上で、参考になる情報をたくさん読むことができました。みなさんも、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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