『必ずくる震災で日本を終わらせないために。』2019/3/4
福和 伸夫 (著)
必ず起きる南海トラフ地震。死者想定は最大32万3000人。1410兆円の損失。それは日本を「終わり」にしてしまうかもしれない……「本音で語り、本質を見抜き、本気で実践する」防災・減災の大切さを教えてくれる本です。
南海トラフ地震などの巨大地震は「必ず起きる」のだそうです。この本には次の記述がありました。
「南海トラフ地震は、100年から200年に一回繰り返し起こっているんだ。だいたい東海沖から九州沖が震源域になって、全区域でいっぺんに起きることもあるし、二つに分かれて起こることもある。最初に全区域のうち半分の側だけで起きるのが半割れ。残り半分も必ず大地震を起こす。前々回の安政地震の時は32時間後、前回の終戦前後の時は2年後に残りの区域で地震が起きたんだ」
この記述があるのは、「序章 シュミュレーション・半割れ」。名古屋市に住む夫婦が緊急地震速報で目覚めたという想定でのドラマ形式のシミュレーションです。
巨大地震が「半分」だけ起きた後に、「残りの半分」の自治体は「避難所は開設するけれど、食事や毛布まで準備することは難しいでしょう」なのだとか! なぜなら先行して地震が起きた被災地が地獄のようになっているので、必要な物資がそちらに向かってしまっているからです。
企業も個人も(私自身も)「三日もてばいいだろう」と考えて非常食などを備蓄していると思いますが、それでは足りないそうです(汗)。うーん……でも一週間分となると、特に水が大変な量になりそう……。
それでも、この本を読み進むと、「3章 ホンネで語るとこんなに怖い」で、石油、電気、水、ガス、通信などのインフラが、大災害のときには復旧に3日どころではなく時間が必要だという現実が突き付けられます。確かに……阪神淡路大震災や東日本大震災、九州の大地震(熊本地震)などでも大変でしたが、「南海トラフ地震」となると、関東から九州まで大きく揺れるのです。
また首都圏の地下も、とても危ないそうです。「4章 それでも東京に住みますか」には、首都東京の地下構造の危うさが次のように説明されていました。
「首都圏は、地中深くに地震を引き起こす二つのベルトコンベヤー(フィリピン海プレートと太平洋プレート)がズルズルと動いていて、その上に関東地方の土台(北米プレート)があるといいう三重構造なのです。さらに土台の上には火山噴出物の関東ローム層やプリンのように柔らかくてよく揺れる沖積層が分厚く覆っているというイメージです。」
うわー……。この本を読むと、そもそも日本列島自体が構造的に危ないという事実がすごくリアルに感じられて、背筋が寒くなります。地盤も、建物も、そして社会のインフラも問題だらけだけど、解決には巨額の資金・工数・時間が必要……いったいどうしたら? と暗くなってしまいました(汗)。
それでも南海トラフ地震などの巨大地震は「必ず起きる」のです。防災・減災の上で、問題だと感じたことを、地道に一つずつ解決していくしかないのだと思います。そのために出来ることを、企業も個人も、現実的に考えて実践すべきなのでしょう。例えば企業ならば、「BCP(事業継続計画)を立てるときに、ライフライン、仕入先や物流などのサプライチェーンまでを考慮に入れる」とか、「現実的な防災訓練(毎回、少しずつ問題点を洗い出し対処することを含めた訓練)をする」とか……。
防災への取り組みとしては、「西三河防災減災連携研究会」の次の活動が、とても参考になりました。
「2017年度の研究会のワークショップでは、豊田市の体育館に20メートルを超える白地図を敷き、頭上からプロジェクターで地震の揺れや津波が伝わる様子や、液状化マップなどを一斉に投影してみました。」
自分の住んでいる・働いている場所がどんな場所なのか、このような「目で見える」形で知ることは、「本気で防災活動」をするための動機付けとして、とても効果的だと感じました。この後、「西三河防災減災連携研究会」や「ホンネの会」は、「産業やインフラを守ることが最大のテーマ」として、ボトルネック探しを行い、防災・減災に本気で取り組んでいるそうです。
さらに、もっと大きな視点から、首都機能の縮小も提案されていました。
「今はテレワークもでき、高速移動手段もあります。人間の生き方が大事な時代ですから、リニアが止まる山梨や長野や岐阜に住む人を増やして、首都を小さくするべきではないでしょうか。」
正直に言って私自身、「まれにしか起きない」震災だから、「何とかなるさ」と思っていましたが、「必ず来る南海トラフ」に備えて、やっぱり備蓄などを見直そうと考えさせられました。
「「相手」をよく知って、防げるものは防ぐ。」それが本当の防災・減災だと私は思っています。」
「巨大地震が必ず来る」ことを実感させられた本でした。ぜひ読んでみてください。
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