『エネルギーの人類史 上』2019/3/25
バーツラフ・シュミル (著), 塩原通緒 (翻訳)
『エネルギーの人類史 下』2019/3/25
バーツラフ・シュミル (著), 塩原通緒 (翻訳)
「エネルギー」を中心にすえて「人類のイノベーションの歴史」をたどる本です。
テーマが「エネルギー」だったので、当然、産業革命とその後の話が中心になると思いきや……なんと半分は「産業革命」以前の歴史でした。考えてみたら、人類の歴史って、産業革命以前の方がずーっと長いわけで……狩猟採集時代も農耕時代も、エネルギーなしには人類の生活は成り立たなかったのだから、当然のこととも言えますね(汗)。
ということで、前後編2冊のこの長大な本の上巻は、ほぼ「産業革命以前」の歴史。伝統的な農業が収穫量をあげるために、どんな工夫を行ってきたか(灌漑、家畜の利用、鉄製品による農具の向上など)や自然エネルギーの利用(水車、風車など)が詳しく語られていきます。伝統的な農耕が集約化に向かう4つの主要な段階として、役畜のより効果的な利用、灌漑の進歩、肥沃化の向上(リン、カリウム、窒素など)、そして輪作と多毛作があげられていました。そして、農業集約化が人口密度の上昇を後押ししたこと、動物にやらせる仕事が増えれば増えるほど、飼料作物を育てる耕作地もそれだけ多く必要になったこと、さらに製鉄のために木材が枯渇していったことなどが書かれています。
こうして産業革命以前の人類の生活をじっくり眺めると、一部の特権階級以外の大半の人々は、主に「自然エネルギー(とりわけ太陽エネルギー)」だけを活用して暑さ寒さに耐え、硬い地面を自らの手や家畜の力を借りて農耕をするという、そうとう過酷な暮らしをしていたんだなーと痛感させられます。
そして下巻は「産業革命以後」。ここから人類は「怒涛のエネルギーの無駄遣い」を始めていきます。それまでは少ししか使われていなかった化石燃料、すなわち石炭・石油・天然ガスを掘るための機械(小型蒸気機関を動力源とした衝撃式穿孔機など)を利用することで、化石燃料の大規模な活用ができるようになったのです。
また、「内燃機関」を動力とした自動車、飛行機、船が運搬や移動に利用されるようになり、それまで家畜に依存していた農耕でも、トラクターなどの農業機械が活躍するようになりました。
さらに「電気」を見出したことで、人類の生活はどんどん変わっていきます。科学者の発明(蒸気タービン、変圧器、電動機、交流を用いた送電)は産業化を加速、人類の文明を高度化させていきました。
そして現在、私たちの生活は、「産業革命以前」とはまったく違う便利で豊かなものとなっています。送電網は全国すみずみまで張り巡らされ、自動車のために舗装道路が整備され、海を隔てた遠い外国の人ともリアルタイムに話ができる……この長大な本を読んでくると、現在、当たり前だと思っている生活には、途方もないエネルギーと、人類の努力の蓄積が使われているのだということを痛感させられました。
ところで先ほど私は「怒涛のエネルギーの無駄遣い」と書かせていただきましたが、著者のシュミルさんは本のぎりぎり終盤まで、このような評価をほとんど表明していません。ひたすら事実を淡々とデータで示していくだけです。人間と家畜による農耕時代から、製鉄、水車・風車の導入、さらに蒸気機関の時代から現代までのエネルギー利用の仕事率、全エネルギー量、一人当たりのエネルギー消費量などを、具体的な数値や表で紹介しているのです。
また人類は、たんにエネルギーをどんどん無駄遣いしているだけではなく、エネルギーの利用効率をどんどん高めてもきたことも示されています。
その上で、シュミルさんは「今後数世代のうちに、今よりずっと多くのエネルギーが必要になる。」と予測しています。現状を考えると、この予測は、ほぼ確実に的中するだろうなーと思われます。
遠い昔と比較すると、現在を生きる私たちが信じられないほど大量のエネルギーを使った生活をしていることを忘れずに、できる限り無駄なエネルギーを使わない工夫をしていきたいと思わされました(節約にもなりますし)。
「エネルギー」をテーマにした人類史の本ですが、人類の生活、創意工夫の歴史をじっくり辿ることもできて、とても参考になる本だったと思います。ぜひ読んでみてください。
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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