『気象学と気象予報の発達史』2018/11/1
堤 之智 (著)

紀元前の気象予報から、21世紀に生きる我々に至るまで、気象学と気象予報がどのように変遷したかを紹介してくれる本です。
古代から、これから先の天気がどうなるのかというのは、人びとの大きな関心事でした。それは耕作や漁、交通といった日々の暮らしに密接に関係しているから。紀元前3500年ごろのエジプトでは雨乞いが行われていたそうです。古代文明では、気象は神の領域にありました。
そして気象学は、他の自然科学と同様に、古代ギリシャの自然哲学者たちから始まったそうです。気温や風などの観察が行われ、気象の原因の推定も行われたのだとか。
それでも、その気象データはきわめて貧弱でした。この本の「4. 気象測定器などの発展」によると、1660年頃の温度計ですら、次のような状況にありました。
「この頃の温度計のスケールは、絶対的なものではなかった。スケールは温度計製作者ごとに異なっており、またそれぞれの温度計が比較可能かどうかは温度計製作者の工作精度にも依存していた。つまり製作者の腕が悪ければ、同じ製作者の温度計でも同じ温度で示度が異なった。」
そして「初めて基準となる温度計を作ったのは、オランダの天文学者レーマーである。(中略)彼は1702年に塩と氷の混合状態を0度、水の沸点を60度とするスケールを持つ標準温度計を作った。これが後世でも示度の再現性が確認された初めての温度計となった。」
まともな温度計が作られたのは、なんと1702年になってから!
その後も気象観測や予測は、なかなか発展しませんでした。それも無理ありません。気象観測・予測は各地の気象データを必要とする「複雑系」で、現在でも、気象予測は、最先端の科学技術を結集させて行う最高難度のものなのですから。
この本は、「気象学と気象予報の発達史」を丁寧に紹介してくれます。
古代ギリシャの自然哲学者アリストテレスや、「知は力なり」を提唱したベーコン、万有引力で有名なニュートンなどの有名な科学者たちも、気象に興味を持ち、気象学の発展に寄与してきたことを知ることができました。
また現在では当たり前のように教科書で習う、気象図や、気団、低気圧、コリオリの力などの考え方が、いつ、どのように考え出されたかの歴史的経緯を知ることが出来て、これらの考えが出されるためには、数学や科学技術の発展が必要だったのだなーと思わされました。
「気象」という観点から、科学史をじっくり読むことが出来ました。
なんとアメリカ独立宣言起草者の一人のフランクリンの時代でさえ、「嵐」が広域を移動するということすら明確ではなかったようで、月食の観測時に嵐がきたために月食を見られなかったフランクリンは、後日、新聞で、ボストンでは月食が観測されたことを知り、各地の新聞を調べたことで、嵐は移動するのではないかと想像し、その通過スピードを初めて見積もったそうです。
現在では、台風などの状況を気象衛星がリアルタイムに見せてくれるので、「台風がいつどれくらいの強さで来るか」を予測するのは難しくないように思えますが、実は「電信」が発明されるまで、各地の気象データをどこかに集約して分析するのは、短時間では到底できないことだったのです。よく考えると、台風などの嵐のスピードの方が馬車より速いことも多いですし、悪天候の中、データを届けるのも大変です。台風の進路を予測できるようになったのすら、ごく最近のことなんだなーと、あらためて驚かされるとともに、「気象予測」のありがたさをしみじみと感じました。
人間の生活に「気象」は非常に大きな影響があるので、今後も気象観測・予測は、最新の科学技術を駆使して行われていくことでしょう。おそらく近い将来、IoTやAIの技術を取り込んで、気象観測・予測がより効率化・高精度化していくことは間違いないと思います。
「気象学と気象予想の発達史」は、まだまだ発展途上。この本を読んで私自身が思ったように、未来の人々にも、「2019年頃は、こんな原始的なやり方で気象予測をしていたんだ。手間がかかって大変だったね」と思われるんだろうなーと考えて、ちょっと不思議な感じがしました。
すごく情報量が多くて読むのは大変でしたが、とても勉強になる本でした。気象に興味のある方はぜひ読んでみてください。お勧めです☆
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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