『情報参謀』2016/7/20
小口 日出彦 (著)

2009年の下野からわずか4年で政権を奪還した自民党。その水面下では、テレビとネットのメタデータを縦横無尽に駆使した政治情勢分析会議が、極秘裏に行われていた……1461日間、自民党をデータ分析で導いた小口さんが、その全貌を明かしてくれる本です。
『情報参謀』というタイトルから、米国CIAの「インテリジェント」のようなものを期待してしまったのですが、ここでいう「情報参謀」とは、自民党の「広報活動のための情報分析・企画・実施」を行う人のことのようでした。この本では、その中心にいた小口さんが、活動内容を具体的に明かしてくれます。自民党の広報活動が中心ですが、TVやネットの情報のデータ分析をする話なので、ビッグデータ分析の活用事例としても、とても参考になると思います。全体は、次の4フェーズに分かれています。
第1フェーズ 野党転落――報道分析から復活への手がかり(2009年秋~2010年7月参院選)
第2フェーズ 膠着停滞――テレビ+ネットデータで精密度アップ(2010年秋~2011年夏)
第3フェーズ 政権奪還――組織横断で情報共有しネット動画で積極発信(2011年秋~2012年12月衆院選)
第4フェーズ 完全勝利――IT全面武装で選挙に臨む(2013年1月~2013年7月参院選)

自民党が野党に転落してしまっていた時代から始まって、政権奪還・完全勝利までの道のりが描かれています。
ところで、「TVやネットの情報のデータ分析」は、AIなどを活用して簡単に実施できるのかと思っていましたが、現実(2009年~2013年当時)には、相当に泥臭い「人海戦術」でのデータが必要だったようです。
「エム・データ社では、100名ほどの人間が、1日8時間ずつ3交代勤務でリアルタイムにテレビを視聴している。テレビに映った映像の内容(情報)を、テキストデータとして記録していくのである。テレビ局名、番組名、放送日時、放送開始・終了時刻、番組内で放送された内容、会話やテロップ、企業名、出演者名など、映像や音声から得られるメタデータをテキストにしてつぎつぎと打ち込んでいく。このテキストデータの集積がテレビ情報のデータベースになり、コンピュータで検索したり分類したりできるようになる。」
……すごく大変な作業ですね。そしてこれらの膨大なデータを「整理して分析する」のが、『情報参謀』。すなわち「大量に集めた情報の整理・集計をしたうえで、「重要トピックの抽出」「トレンドの描写」「ポジ/ネガの判別」と項目別に分析し、「攻めどころ」「守りどころ」の示唆をまとめて、それらの情報を日次、週次、月次の報告書にして提出」するまでが、情報参謀の仕事で、その分析会議の結果を受けたアクションは、政治家のレベルでやるという役割分担がしだいに出来上がっていったそうです。
このデータ分析は、いろいろなことを明らかにしていったそうですが、その一つに「内閣不信任決議案や問責決議案は、むしろ野党の支持率を下げる」という事実があったのだとか。
「ただし、私たちの調べでは、内閣不信任決議案や問責決議案は、むしろ野党の支持率を下げるらしいということがわかってきた。(中略)良識あるサイレントマジョリティ、つまり大方の有権者はどうせ不信任など提出したところで通るはずがないとわかっている。そんなことをして国会を延長したって税金のムダ遣いだと考えている。つまりは無意味な醜い争いに辟易しているわけだ。」
……これにはすごく共感できました。私自身も議員の行う「審議妨害」的な行動にはとても失望させられていましたし、なんと2018年にも行われてしまった野党の「牛歩戦術」に至っては、それを行う議員の無能さを声高にアピールするだけの効果しかないのでは? と感じています。こういう無意味な税金の無駄遣い活動は、即刻やめて欲しいと思います。
でも……「内閣不信任決議案や問責決議案は、むしろ野党の支持率を下げるらしい」ことが、きちんとデータとして示されたと知って、ホッとしました。やはり大半の日本人には良識があり、ネットなどでも、そう意思表示しているのですね……。
この『情報参謀』は、自民党の新しい広報戦略を具体的に知ることが出来るだけでなく、メディアでの情報分析の方法を知る上でも、すごく参考になりました。このような方法で、サイレントマジョリティである国民の意思を読み取り、それが政治や政策に反映され、社会全体がより良い方向に向かっていけるといいな、と願っています。
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