『リーダーを目指す人の心得 文庫版』2017/6/9
コリン・パウエル (著), トニー・コルツ (著), 井口耕二 (翻訳)

黒人としてはじめて米国陸軍で四つ星の大将にまで上りつめ、統合参謀本部議長に史上最年少で就任、2001年から2005年までは国務長官を務めたコリン・パウエルさんが、百戦錬磨の経験から編み出した至高の仕事術と人生論など、リーダーを目指す人の心得を教えてくれる本です。
実を言うと、コリン・パウエルという著者名を見て、ぱっと思い出したのは、憤懣をおさえているようにも見えた頑固そうな顔と、イラク戦争のこと。実際には大量破壊兵器はなかったのに、イラク戦争に結びつくような国連演説(2003年2月5日)をした人だということでした。……そんな人が「リーダーを目指す人の心得」を?(笑)、と一瞬思ってしまいましたが、それでもこの本を手に取ったのは、人種差別意識が今よりも強かった時代のアメリカで、米軍の統合参謀本部議長や国務長官にまで上りつめた黒人だということも知っていたから……本当の苦労を知っている人の話は、聞いておいて損になることは絶対にないと思ったからです。
読み終えてみて、やっぱりこの本は、すべての方に読んで欲しいとまで思える素晴らしい内容でした。「第一章 コリン・パウエルのルール」だけでも読む価値が十分あります。それは次の13条です。
1 なにごとも思うほどには悪くない。翌朝には状況が改善しているはずだ。
2 まず怒れ。その上で怒りを乗り越えろ。
3 自分の人格と意見を混同してはいけない。さもないと、意見が却下されたとき自分も地に落ちてしまう。
4 やればできる。
5 選択には細心の注意を払え。思わぬ結果になることもあるので注意すべし。
6 優れた決断を問題で曇らせてはならない。
7 他人の道を選ぶことはできない。他人に自分の道を選ばせてもいけない。
8 小さなことをチェックすべし。
9 功績は分けあう。
10 冷静であれ。親切であれ。
11 ビジョンを持て。一歩先を要求しろ。
12 恐怖にかられるな。悲観論に耳を傾けるな。
13 楽観的でありつづければ力が倍増する。

もう最初のルール「1 なにごとも思うほどには悪くない。翌朝には状況が改善しているはずだ。」を見ただけで、ガーンと心が打たれました。さすがに現実として、何度も「困難な状況で判断を続けてきた人」だけのことはあります。私も今後、何か困難な状況に陥った時には、このルールを思い出すようにしようと、しっかり心に刻みつけました。
そして次のルール「2 まず怒れ。その上で怒りを乗り越えろ。」はちょっと人間的で、ほっとさせられます。これらのルールは、人間だから完璧な判断や精神制御など出来ないこともある、それでも最も「正しい・良い」と思うことを自分の責任で実行せよという原則に基づいているように感じました。
「第一章 コリン・パウエルのルール」は、これらのルールが、エピソードをまじえて紹介されています。その経緯などを知ることが出来るので、ルールの背後にある深い思いを理解することが出来て、血肉が通ったもの、自分のルールとしても活かしやすいと思います。
そして「第二章 己を知り、自分らしく生きる」以降は、パウエルさんの半生が綴られていきます。国務長官時代のエピソードも赤裸々に明かされているので、米政治の舞台裏を知る意味でも貴重な記録だと思います。
「第六章 人生をふり返って」では、パウエルさん自身が、自らの失敗として国連演説(2003年2月5日)を反省しています。これを読んだら、第一章でルール「5 選択には細心の注意を払え。思わぬ結果になることもあるので注意すべし。」に添えられていた次の文章が、しみじみ心に深く沁みました。
「いったん選んだら、その結果は自分で引き受けなければならない。選択をまちがえた場合、あとから訂正できることもあるが、訂正できないこともある。」
……それでもパウエルさんは、この件についても、第六章で次のように言っています。
「(前略)最悪とも言うべき失敗であり、影響が一番大きかったことはまちがいがない。だが、少なくともひとつ、ほかの失敗と変わらない点がある。次のような指針に従い、いつもと同じように対処したという点だ。
失敗はなるべく早く克服すること。また、そこから学ぶこと。転んでもただでは起きないのだ。自分がどうかかわったのかを検討する。自分に責任があるなら、潔く認める。自分よりも責任の重い人がいるかもしれないが、避難口がわりにそういう人を探さないこと。(中略)昔に受けた侮辱や裏切り、攻撃、不幸などをぐちぐち言いつづける厄介者にはならないこと。友だちの慰めにおぼれないこと。学んで前に進むのだ。」
……本当に実践的に役に立つ『リーダーを目指す人の心得』でした。「コリン・パウエルのルール」の他にも、「常識的に変だと感じないか? 深呼吸をしたり目をこすったりしてみよう」から始まる「情報の第一報対応のチェックリスト」や、「彼らは質問を選べる。君は答えを選べる」から始まる「記者との対応へのアドバイス」など、リーダーとして参考になる情報が満載です。ぜひ読んでみて下さい。お勧めです☆