『情報から真実をすくいとる力』2011/4/19
黒岩 祐治 (著)
元「報道2001」キャスターで神奈川県知事の黒岩さんが、キャスターや報道部の記者時代に培った情報術を紹介してくれる本です。
「第2章 情報にだまされない「目」を養う」には、「「真実」は「事実」の積み重ねではない」事例として、「ウィキリークス」が公開したビデオがとりあげられていました。それは、2007年、イラク戦争時にバグダッド郊外で、アメリカ軍のヘリが民間人を襲撃し殺害した現場を映したもので、これだけを見るとアメリカ軍の非道さだけがクローズアップされてしまうようなものだったのですが、真実は本当にそれだけなのか?という疑問が提示されていたのです。
「民間人であってもお構いなしに撃ったとすれば、軍法会議にかけられるべき重大問題だ。しかし、たまたま戦闘地域に紛れ込んでしまった民間人を、それと識別できずに撃ったのであれば、軍としては処分の対象にはならない。」
「我々は内部告発というだけで、信憑性が高いと思いこんでしまうところがあるのではないか。そこが落とし穴になりかねない。民間人射殺は事実であっても、それは単なる事実にしかすぎない。そこに写し出された映像だけを見ても、本当に起きていた真実を知ることはできないのだ。」
……確かに、そうなのかもしれません。「映像」というのは、一部を切り取ったものでも、「それだけが真実」という説得力がとても強いので、その周辺をよく見極める目を持たなければいけないな、と自戒させられました。もっと恐ろしいことに、最近は、偽造映像の手口も巧妙化していることですし……。
また「第3章 最短距離で真実に迫る情報入手・分析術」には、次のような方法などが紹介されていました(ここでは項目の一部のみを抜粋して紹介)。
1)情報高感度人間になるために必要な心得
・好奇心が情報収集を加速させる
・2本のアンテナが広く深い知識を引き寄せる
・速読ではなく、あえて「スローリーディング」をする
・インプットしながらアウトプットをこなす
2)情報収集には「人」と「現場」にとにかくこだわる
・真実に迫るには現場に足を運べ
・自衛隊医療の活用を提案した論文
・素人だから見える情報もある
・現場は裏切る!
・ネットワークを作れば自然と情報が集まってくる
・現場だからこそ見えないこともある
・ダイヤの原石はノイズの中にある
などなど。
これらもとても参考になったのですが、個人的に一番参考になったのは、「第1章 テレビと新聞は「本当に」終わったのか?」の橋本元首相の話。テレビでは、政治家の本音を聞き出すために、あえて厳しい質問をぶつけることがあるそうですが、そんな時、橋本元首相はこんな対応をしたのだとか。
「キャスター時代を思い返して最もやりづらかったのは、亡くなった橋本龍太郎元首相だ。彼はこちらが質問すると「君はどう思うの? どういう意味でその言葉を使っているの?」などと質問で返してきて、本心を語らない。逆質問である。
私がどう考えるかよりも、「権力を持った政治家が、どう考えているか」を引き出すことが、私の仕事だ。私が答えようとしないと、橋本は「キャスターはずるいよな。自分の考えは言わないで、人に聞いてばっかり。都合が悪くなったら、『はい、CM』っていっちゃうんだから……」と煙にまくのだ。」
……なるほど、流石ですね。個人的には、テレビで、誰にもどうにもならないような困難な事態(原発事故や新型コロナなどの災害)について、政治家や行政担当者に「一体どうする気ですか!」などと詰め寄る人(記者や野党)を見ると、質問者本人自身はどうすればいいのか適切な対処方法が分かっているのだろうか? と疑問に思っていたのですが、そう感じる時には、本当に本人にそう問い返してみれば良いのだなと学ぶことが出来ました。いつか使ってみたいです(笑)。それに一般視聴者としては、キャスターさんや記者さん、野党の方の意見(適切な対処法としてのアイデア)もぜひ聞いてみたいです。良いアイデアが、困難な事態を打開するための端緒となるかもしれません。
「情報から真実をすくい取る力」は、容易に培うことが出来るものではなく、幅広い知識を持つとか、逆の面から考え直してみるとか、疑いをもって見直すとか、いろんな総合力が必要なのでしょう。とても高度な能力なので、この本だけで、その力がつくとは思えませんでしたが(汗)、参考になる情報やヒントを得られたと思います。ぜひ読んでみてください。
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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