『わかっていても騙される 錯覚クイズ』2018/4/12
杉原 厚吉 (著)
動いて見える、大きく見える、違う形に見える……錯視・錯覚図形101点を、クイズ形式で収録している本です。
『錯覚クイズ』というタイトルだったので、「錯覚」を取り入れた新しいパズルなのかな? と思ってわくわくしながら読み始めたのですが、クイズ形式を利用した「錯覚に関する解説本」という感じで、特に「頭を使う」難問もなく、「目を使って騙されて驚く」錯覚の本でした。だから1問あたり数秒で終わります(笑)。
それでも、とても良くできた錯覚図形が満載で、「えええ?」という驚きを存分に楽しめました。「錯覚本」はかなり読んでいるので、「どちらが長く見えますか?」的なクイズには、「どうせ同じなんでしょ」と即答したくなるほど擦れてしまっている私ですが、あまり見たこともなかった意外な絵もあって、新鮮に楽しめました。
その一枚が、「全体は1枚の静止画で、中央はシャープな絵、周辺はボケた絵になっている画像」。これをゆっくり動かすと、本当に「中央のひし形領域が周辺から遊離して動いているように見えて」くるのです! うわー凄い!って感じで、なんだか目がくらくらしました。
本当に「錯覚」って、面白くて、そして怖いですね……。
この本には、ただ眺めるだけで「うねるような動きが見えてくる画像」もありますが、こういう錯覚図形が、「紙面を動かさなくても動いて見えるのは、私たちの網膜がいつも細かくランダムに動いているから」なのだそうです。
「なぜ動くかというと、実は、私たちの目が動いていて、その動きが見えているからなのです。目は、光を受けるセンサーですが、同じところで光を受け続けると感度が落ちてだんだん見えにくくなってしまいます。ですから、それを避けるために、私たちの目はいつも細かくランダムに動いて、光を受ける場所を変えていきます。つまり、静止図形をじっと見つめているときでも、網膜に写った像は細かく動いているのです。」
目がそういう構造になっているので、錯覚はどうしても起こってしまうのですね。
そして錯覚は、「視覚」を科学的に解明するのに、とても役に立つものでもあります。
「ものの性質を調べたいときには、そのものを極限状態に置くのが常套手段です。(中略)目でものを見る仕組みを知りたかったら、目にとっての極限状態を作るのがよいでしょう。でも、目を低温に置いたり、真空に置いたりすることはできません。そこで代わりに錯視が利用されます。錯視図形を見せることは、目を極限状態に置くことに相当します。目の機能の一部が極端に誇張されて振る舞いますから、目が普段何をやっているかがわかりやすくなります。このように、錯視は、目の機能を調べる視覚科学にとっては実験材料の役目を果たすのです。」
錯視図形は、他人をびっくりさせるためだけに、あるわけじゃないんですね(笑)。
個人的には、「錯覚」は私たちの脳が「高度」だからこそ、むしろ発生してしまうのだと考えています。杉原さんも次のように言っています。
「脳にとって重要なのは、網膜に映った画像の情報から目の前の状況を正しく判断することです。そのためには、奥行き方向にひずんだ網膜像から、そのひずみを補正して、空間における正しい形を判断することこそが脳の役目のはずです。つまり、奥行きのある図形に対して脳はこの補正をしているわけで、正常に働いていると言うべきでしょう。」
私たちの脳は、見たものをそのまま情報処理するわけではなく、今までの経験で得た類似画像と関連付け、重要だと感じた情報を中心として瞬時に圧縮し、効率的に理解・記憶するという素晴らしい機能を備えています。通常はこれがうまく働くのですが、残念ながら特殊な状況では、「錯覚」を起こしてしまうことになるのでしょう。「脳(視覚)」はとても凄い奴だけど、「特殊な場合は錯覚を起こすことがある」ことを忘れずにいたいと思います。
いろいろな種類の驚きの「騙し画像」「錯視・錯覚図形」を、クイズ形式で気楽に楽しめる本でした。勉強にもなるので、ぜひ読んでみてください。お勧めです☆
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