『紙の日本史: 古典と絵巻物が伝える文化遺産』2017/5/31
池田 寿 (著)

日本のさまざまな古典作品や絵巻物を通して、文化の源泉としての「紙」の実像と、紙と人びととの関わりを考察している本です。
昔から、日本人の生活のなかに「紙」は常に存在していました。この本は、紙と日本人の関わりについて、古典作品や絵巻物に描かれた文章や図を通して、紙の歴史的な変遷などを考察しています。
冒頭に7ページのカラーページがあり、繊細な模様のある紙に書かれた『大和物語』や『古今和歌集』をカラー写真で見ることが出来ます。
そして本文の「1 紙漉き」では、『弘法大師行状絵詞(1389)』に描かれている情景のなかに紙漉きの場面が見られることが白黒写真とともに示されていて、この時代の紙漉きの方法を「絵」で見ることが出来ました。子どもや老婆などもいる生活感に溢れた中で、小川の側で女性が紙を漉いている絵で、この時代に、本当にこういう方法で紙が漉かれていたんだろうなーと、微笑ましくなってしまいました。
「2 紙の機能と用途」では、1)書く、2)包む、3)飾る、4)補う、5)着る・かぶる、6)結ぶ・付ける、7)拭く・撫でる、8)隠す、9)隔てる・敷く、10)張る、など、昔から「紙」がさまざまな利用の仕方をされていたことを、古典作品や絵巻物を通して知ることが出来ます。
「平安時代のかな消息の多くは、薄様を用いていたが、男女で用いる薄様の色が異なっていた。男性は紅色、女性は紫色を用いるのが普通であった。」というようなことまで分かっているようです。
「丁子染めのような香りのある香染紙」という素敵な紙は、なんと防虫効果があったようで、「紙を染める」ことは美しさだけでなく、保存性のためにも行われていたのだとか。黄色い紙には防虫効果のある紙が多かったようで、戸籍などの公文書用紙としても使われていたようです。
さらに、紙の使い道の一つとして「布団」もあったようですが、「紙の衾の鳴る音が雷神の如くすごい音になる」ようで、貧しい暮らしの象徴だったようです。
「3 紙名と紙色」では、昔の紙の産地、紙の模様、染料など、日本の紙の歴史について、いろいろ知ることが出来ました。
そして最後の「4 反古紙」。昔、紙は貴重品だったので、反古紙はもちろん再利用されたのですが、次の記述には、日本人の「もったいない」精神のルーツを感じさせられました。
「紙に書かれたものには魂が宿るとされ、不用になった場合には元の紙に漉き返すという慣習があり、反古紙を使うのは現生利益的な発想に基づく行為であり、仏教的な善を積むことでもあった。それゆえ、各時代を通じて反古紙の利用はなくなることはなかった。」
日本の「紙」の歴史を知ることが出来る本です。かなりマニアックな本ですが(汗)、興味がある方は読んでみてください。