『百冊で耕す 〈自由に、なる〉ための読書術』2023/3/2
近藤 康太郎 (著)
自分にとっての百冊を、自力で選び、深く読み、自分の一部にしていくための方法論を11のテーマで解説してくれる本で、内容は次の通りです。
はじめに――本は百冊あればいい
第1章 終わりなき論争:速読の技術/遅読の作法
第2章 本という投資:本を買う/本を借りる
第3章 読まないくせにというけれど:理想の積ん読/狂気の積ん読
第4章 わたしは読めているのか:「分かる」読書/「分からない」読書
第5章 「論破力」より、深く掘る:批判して読む/憑依されて読む
第6章 読む本を選ぶということ:わたしが選ぶ/先人が選ぶ
第7章 読書の愉楽:孤独の読書/みんなの読書
第8章 何のために本を読むのか:あわいの娯楽/挑むべき修業
第9章 百冊で耕す:読むことは愛されること/読むことは愛するということ
第10章 美しい日本語世界のわたし:母語でじゅうぶん/原書にあたってこそ
第11章 Don’t Think Twice:ズレてる方がいい
おわりに――この世界とつながる:はじめにリプライズ
百冊選書
参考・引用文献
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面白いのは、この本、各章が、対立する読書法の二律背反の二つの節で構成されていること。例えば「第1章 終わりなき論争:速読の技術/遅読の作法」の場合は……、
■A面 速読の技術――本を精査するためのスキニング
■B面 遅読の作法――空気を味わうためのテクニック
……のように構成されています。
速読の良さも、遅読の良さも、両方が書いてあるのです。読書にはいろんな方法があり、それぞれに良さがあるので、自分に合った方法を選べばいいということなのでしょう(もちろん状況に合わせて、全部を選んでもいいのです)。
そして驚いたのが、本文には「近藤さんの百冊」があまり出てこないこと。普通、このような「XX冊」というのがタイトルに入っている本は、XX冊の本の概説がテーマになるものですが、この本は「はじめに」に、「本書は、自力で百冊を選べるようになるための、その方法論のつもりで書いた。」とあるように、「あなた自身の百冊」を選べるようになる方法がメインなのでした(笑)。
もちろん巻末には、近藤さんの「百冊選書」があり、各本の短い概要と読みどころのような短いコメントがついています。ざっと見た限りでは、古典的名作(文学)が多いような気がしました。一部、哲学書や評論や学術書のようなものもあります(漫画もありました)。有名な本が多いので、読んだことのあるものも、かなり含まれていましたが、読んだのは昔のことなので、いつか再読してもいいかな、と思ってしまいました。名前だけ知っていて、読んだこともない本もありました。これを参考にして、読んでみようかな……。
さて、近藤さんは根っからの読書好きのようで、私自身もそうなので、共感を覚える文章にたくさん出会えてしまいました。
まずは「はじめに――本は百冊あればいい」の冒頭から……
「ある日 立てなくなったことがある。(中略)
唯一できたのが、本を読むことだった。(中略)
なぜ本だけは読めたのだろう。ときどき考える。いまも分からない。だが、ひとつだけたしかなことはある。本が<薄味>だからだ。押しつけないからだ。
自分が入れる範囲までしか、自分の心に入ってこない。ひとたび入れようとするなら、どこまでも入ってくる。意味を拡張する。染み入る。繊細で、絶妙で、薄味な悦びが、頭と心を満たす。気持ちを、逸らす。「いま/ここ」から、逃避する。罰せられる悪徳・読書。」
……これ、まさに私が「読書好き」なのも、「本」がこういう性質をしているからだ! とすごく納得してしまいました。「TV番組」などの映像は、拘束された時間に、相手が見せたいものを見るしかありませんが、「本」には「自分の好きなように読める」自由さがあるんですよね……。もちろん「TV番組」には、他のことをやりながら(食事や運動など)視聴できるという大きなメリットがあるので、TV番組も大好きですが、本はそれ以上に大好きです☆
面白いと思ったのは、「第3章 読まないくせにというけれど:理想の積ん読/狂気の積ん読」。
「A面 理想の積ん読――かっこつけると見える景色がある」では、「読みたい本をとにかく本棚に積んでおく」という方法が紹介されていました。
「本棚があまりに立派な積ん読本ばかりになる。すると、こんどは自分がその本棚に引っ張られる。」
……なるほど、「自分を高めていく」こんな方法があるんですね!
またその「B面 狂気の積ん読――愛しすぎると見失う本質がある」では……
「読書は<自発>への導火線だ。自発的であるがゆえに、予測不可能に発火する。予想していなかった知恵、感情、共感、思考に延焼する。保険はきかない。
最大にして最後的な本の御利益。自発。」
……なんて文章が。
その他にも、心に残る文章がたくさんありました。その一部を以下に紹介します。
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「本は、答えが入っている箱ではない。読書とは、問いを、自力で言葉にできるようにする、遠回りの、しかし確実なトレーニングだ。問う筋力をつけている。」
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「(前略)「結論が一目で分からない」なんてあたりまえではないか。だいたい、結論は著者も分かっていない。(中略)
一作を書き上げる。著者はとりあえずの結論を得る。しかし、その結論ではすぐに満足できなくなる。書き終えることには、問いの深さが増しているからだ。そして新しい作品に取りかかる。答えを得る。また満足できなくなる。」
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「(前略)批判するにせよ、まずは実物を読まなければ話にならない。批判的な目を持って疑いながら読む。」
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「孤立を求めず、孤立を恐れず。
本を読む。その、もっともすぐれた徳は、孤独でいることに耐性ができることだ。読書は一人でするものだから。ひとりでいられる能力。人を求めない強さ。世界でもっとも難しい<強さ>を手に入れる。
読書とは、人を愛するレッスンだ。」
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……などなど。読書は、情報を与えてくれるだけでなく、人により良く生きる方向を教えてくれます。
『百冊で耕す 〈自由に、なる〉ための読書術』を教えてくれる本でした。みなさんも、ぜひ読んでみてください。
なお、近藤さんは「朝日新聞」名文記者で、本書の前に『三行で撃つ』という文章術の本を出しています。『三行で撃つ』はアウトプットの方法論、『百冊で耕す』はインプットの方法論という姉妹編になっているそうなので、以下の商品リンクでは、『三行で撃つ』も合わせて紹介しています。
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