『身のまわりのあんなことこんなことを地質学的に考えてみた』2022/11/18
渡邉 克晃 (著)
意外にも私たちの身近にあふれている地質学。鉄やアスファルト、セメント、ガラスなどの建材や、文房具や食器、化粧品などの日用品、さらに街なかで見かけるさまざまな石や岩、自然が生み出す美しい景色や宝石、豊かな恵みをもたらす土壌、社会を支える鉱物やエネルギー……これら身のまわりのあんなことこんなことを、地質学的に教えてくれる本です。
例えば、次のような事実を知ることが出来ました。
「花崗岩と玄武岩でできた部分を地殻、橄欖岩でできた部分をマントルと呼んでいて、マントルはじつに地球の全体積の83%を占める巨大なものです。」
また、現代のハイテク産業に欠かせないレアアース鉱石には、放射性元素であるトリウムやウランが含まれているので、鉱山開発によって深刻な環境汚染が引き起こされることがあるそうです。……えー、そうだったんだーと暗い気持ちになっていたら、次のような明るい話も書いてありました。
「環境汚染を引き起こすことなくレアアースを採掘する方法が、じつは日本で始まっています。日本の最東端のある島、南鳥島の周辺の海底で2013年に、高濃度のレアアースを含む泥が発見されました。
高濃度のレアアース源となっているのは、この泥に含まれる大量の魚の骨の化石です。魚の骨は生きている間はほとんどレアアースを含みませんが、死後に海底に集積してからは、海水中のレアアースを非常に高い濃度になるまで濃集します。(中略)
海底の泥がレアアースの採掘に有利な点は、レアアースの濃度が高いだけではありません。海底の泥には、陸上のレアアース鉱山とは違い、放射性物質であるトリウムやウランが含まれていないのです。」
……これはありがたいですね! それにしても魚の骨の化石がレアアース源になるとは……驚きです。
そして個人的に一番興味津々だったのは、「粘土」に関するさまざまな情報。次のように書いてありました。
「粘土は、砂を細かくすりつぶした石の粉とは、根本的に異なる物質です。砂つぶをつくっている鉱物が化学的に変化して、別の鉱物になることで粘土が生成します。これを粘土鉱物と呼んでいます。
化学的な変化というのは、水による風化作用のことです。砂粒を構成する粒子には、石英や長石、黒雲母などの鉱物が含まれています。長石や黒雲母は比較的風化作用を受けやすい鉱物です。雨水や河川の水に長時間さらされることで、元素の一部が抜けて結晶構造の異なる粘土鉱物へと変化していきます。」
「粘土鉱物は層状の結晶構造と微細なサイズという特徴によって、粒子の表面や内部に多くの水分子を含むことができます。水を含むことで特有の粘り気が出てくるのです。
このように、土に含まれている無機物は単なる砂や石の粉ではなく、その中には化学的に変化した粘土鉱物が大量に混ざっているわけですね。砂と腐った落ち葉を混ぜても土にはならず、土ができるには、砂から粘土への根本的な変化が不可欠なのです。」
へえー、粘土って、ものすごく時間をかけて生成されていたんですね。
そんな粘土は、陶器や磁器に使われるだけでなく、次のように驚くほどいろんな使い方をされているのです。
「フルカラー印刷の本が重いのは、インキがたくさん使われているからではなく、光沢紙自体が「重い紙」だからです。といっても、単に厚い紙を使っているという意味ではありません。光沢紙がなぜ重いかというと、それは表面に粘土が塗られているから。(中略)
光沢紙の表面をコーティングする材料には、おもに粘土鉱物のカオリン石と炭酸カルシウムの粉末が使われます。カオリン石と炭酸カルシウムは鉱物の粉で、それらを結合剤(糊)や水などと混ぜて、固形分65%程度の液体にしたものが基本のコーティング剤。
結合剤に使われるのは合成ゴムを含む乳濁液(ラテックス)やデンプンなどですが、鉱物の粉との比率は10:1ぐらいなので、コーティング剤の主成分はほぼ鉱物と考えて差し支えありません。」
ええー! カオリン石という物質が紙のコーティングに使われていることは知っていましたが、あれって「粘土」だったんですか!
そして、なんと化粧品にも使われているんです。
「(化粧品の)乳液やクリームのしっとりとして濃厚な使用感は、粘土を混ぜることで得られます。」
同じ目的で、マニキュア、口紅、ファウンデーションにも粘土が使われることがあるそうです。化粧品によく使われる粘土はヌメクタイトとマイカで、ヌメクタイトには「水を吸って膨らみ、ゲル化する特徴」があり、マイカには逆に「水分子を取りこまないという特徴」があるのだとか。
さらに粘土は、高レベル放射性廃棄物の埋設処分でも活躍するそうです。
「高レベル放射性廃棄物を地下深くの岩盤に埋めるとき、廃棄物の周りを粘土の壁で覆うというのが、基本的な地層処分の方法です。まだ計画段階ですが、ガラス固化体を埋設する日本の地層処分では、分厚い金属製の容器に収められたガラス固化体を、厚さ70cmほどの粘土の壁で覆いながら地中に埋めていく計画です。」
粘土で埋めると、地下水の侵入を防ぐだけでなく、ガラス固化体から溶け出してきた放射性物質を吸着して外に逃がさないようにすることが出来るそうです。
……粘土って、とってもありがたい物質だったんですね……。
この他にも、「鉄道の線路に敷かれている大量の石が角ばっているのは、角が尖っていて互いに噛み合う石でないと、レールの固定に役立たないから」とか、「オリンピックのメダルが金・銀・銅なのは、色のついた金属は金と銅だけだから」などの、面白くて参考にもなる情報が満載☆
私たちの身の回りにあるもののことを、地質学的に教えてくれる本でした。一つの記事あたり5ページ程度なので、気分転換に読む気軽なエッセイ集みたいな感覚で読んでいるうちに、地学的雑学も知ることができる素敵な本だと思います。みなさんも、ぜひ読んでみてください。
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