『生物を分けると世界が分かる 分類すると見えてくる、生物進化と地球の変遷 (ブルーバックス)』2022/7/21
岡西 政典 (著)

 分類学の始まりは紀元前。アリストテレスからリンネ、ダーウィン……と数々の生物学の巨人たちが築いてきた学問は、分子系統解析の登場によって、大きな変化と進歩を遂げようとしています。
 生物を分けて名前を付けるだけではない「分類学」は、生命進化や地球環境の変遷までを見通せる可能性を秘めている……「分類学」を総合的に知ることができる本で、内容は次の通りです。
プロローグ 分類学者の日常
第1章 「分ける」とはどういうことか ~分類学、はじめの一歩
第2章 分類学のはじまり ~人は分けたがる生き物である
第3章 分類学のキホンをおさえる ~二名法、記載、命名規約とは?
第4章 何を基準に種を「分ける」のか? ~分類学の大問題
第5章 最新分類学はこんなにすごい ~分子系統解析の登場と分類学者の使命
第6章 生物を分けると見えてくること ~分類学で世界が変わる
エピローグ 分類学の未来
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「プロローグ」には、分類学者の日常が次のように書いてありました。
「フィールドに出かけ生物のサンプルを収集し、しかるべき形の標本にし、観察し、論文を書く。その過程の中で、生物の名前の整理をおこなうこと――多くの場合は新たな種を発見すること――に喜びを覚え、ひたすらに記載を進めている。」
 そして「第2章 分類学のはじまり ~人は分けたがる生き物である」では、分類学の歴史が紹介されています。
 今日の「科学としての」分類学の基礎は、アリストテレスから始まったともいえるそうです。アリストテレスの『動物誌(500種以上の動物記録)』は、当時としては珍しく、非常に詳細かつ客観的な「観察事実に基づいている」のです。
 また博物学が母体となりました。
「「博物学」とは、動物や植物などの生物や鉱物といった自然界に存在するものを、その性質ごとに種類分けし、整理する学問である。平たくいえば「自然物すべての分類学」であり、本書でいう、生物を相手にした「分類学」のいわば母体的な存在である。」
 そして「分類学」といったら、分類学の父と言われている博物学者カール・フォン・リンネを忘れてはなりません。「第3章 分類学のキホンをおさえる」では、シンプルで実用的だったリンネの分類体系が、現在も使われている「界、門、綱、目、科、属、種」という生物の階層の基礎を作り、「属名+種小名」という2つの単語で種を表す「二名法」とともに、現代でも用いられる分類学の基本的な運用法が確立されたのです。
 またこの章では、「新種を見つけたら、どのように発表するか」についても知ることが出来ました。新種を見つけたら、科学雑誌などに新種の「記載論文」を掲載して発表するのが一般的だそうです。その論文はどう書くかというと……
「その種を新種と判断するに至った経緯を示すために関連する生物の論文を読み漁り、その種の形態に代表される特徴を詳細に観察し、文字やスケッチ、写真によってそれらを「記載(生物の特徴を著作内で文書化すること)」し、最後にそれを新種と判断するだけの根拠を述べなくてはならない。」
 ……これがなかなか大変で、一年以上かかることも多いそうです。
 また「第4章 何を基準に種を「分ける」のか? ~分類学の大問題」では、いかに生物を分類するかに統一的なものはなく、いろいろな種の分け方があることが説明されていました。
 ……確かに。一見全然違う生物に見えても、同じ生物の幼体と成体だったり、オスとメスだったり、季節(特に気温)によって違ったり、奇形だったり……生物を「分ける」って、よく考えるととても難しいですよね……。
 でも最近は、DNA情報を用いて系統を推定する分子系統解析が取り入れられるようになって、分類効率が上がっているだけでなく、既存の分類の見直しも進んでいるようです。
 ちなみに分子系統解析とは……
「DNA解析で得られた遺伝子の塩基の配列から系統樹を作成する方法をかなり大雑把に説明すると、基本的には「配列の類似度」を検討することになる。」
 またDNA情報を用いて系統を推定する分子系統解析のメリットとしては……
1)客観性が高い
2)全生物で共通である
3)独立性が高い
4)情報量が多い
5)形質状態が決まっている
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 そして「第6章 生物を分けると見えてくること ~分類学で世界が変わる」では、分類学の役割には、次の二つがあると書いてありました。
1)生き物を分け、名前を付け、体系の中に位置付け、私たちがそれを認識可能にすること。
2)分類学者によって異なるさまざまな種の認識をまとめ、名前に混乱が生じた場合には、その中からもっともらしい名前を選ぶこと(名前の安定性を図る)
 ……確かに。生き物にきちんと名前がつけられ、より正しく分類されていることは、いろいろな研究の基礎になるので、とても大事なことだと思います。
 でも「生き物を正しく分類すること」はとても難しいことですし、新しい分子系統解析で、既存の分類に混乱があることが明らかになることもあるようですが、これらを含めて、一歩一歩「より正しい分類」に近づけていくことが大事なのではないでしょうか。
 さて、「エピローグ 分類学の未来」には、新しい学問分野の「バイオインフォマティクス(DNAなどに代表される生物の「情報」を用いて解析し、生命現象を解き明かす学問分野)」のことも紹介されていました。AIの導入で、バイオインフォマティクスによる情報処理が高速化する可能性もあり、新しい種の命名や、既存の種の分類をより正しい方向へ向けることが、効率的になっていくかもしれません。今後の分類学にも期待したいと思います。
「分類学」について総合的に紹介してくれる本で、とても参考になりました。興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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