『化石の復元、承ります。 古生物復元師たちのおしごと』2022/7/19
木村 由莉 (著), ツク之助 (イラスト)

 2022年の国立科学博物館特別展「化石ハンター展」で総指揮を務めた木村さんが、特別展の展示づくりの現場を詳しく教えてくれる本です。誰も見たことがない太古の大型獣の復元に挑む職人の仕事や、骨格レプリカ、生体模型、デジタル復元など、展示づくりの現場を多角的に紹介してくれます。
 展示の目玉となったのは、チベットケサイの全身骨格レプリカと、生体復元模型。もともとは特別展の展示室に、特別な化石を招びたいと考えていたそうですが、新型コロナウイルス対策のロックダウンのために、実物の化石を借りることが不可能になってしまったため、「古生物復元」チームを作って、特別な標本・チベットケサイを作ることにしたそうです。おかげで、こうして古生物復元師たちの作業内容を、写真で詳しく知ることが出来ました。
「チベットケサイ復元のレシピ」は次の通りです。
0)実物化石のレプリカを入手
1)骨格レプリカの復元ポーズを決める
2)変形した頭骨のデジタル復元
3)骨格レプリカ製作と組み立て
4)自然の姿を再現した生体模型(生体模型で家族を作る)
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 もちろん、このチベットケサイの骨格復元モデルの写真や、生体模型の写真も見ることができます。家族の姿をした生体模型はとても素晴らしくて、とりわけ「雪にはしゃいでゴロゴロしている」子供のモデルがすごく可愛いのですが……実際に展示されているのは、このモデルを毛皮で覆ったもので……なんか「中身」のモデルの方がずっと可愛いような(笑)。というか、毛皮で覆われたモデルの中身も、こんなにリアルに精密に作られているんですね!
 そして、やはり何といっても興味津々だったのは、これらの展示モデルの製作途中経過写真をたくさん見ることが出来たこと!
 仮組み中の骨格モデルは、巨大な木枠の中で吊られているとか、中に鉄パイプを通して補強してあるとか、いろいろな状況をリアルに知ることが出来ました。工作好きとして、参考になったことの一部を紹介すると次のような感じ。
・欠損して骨がないところは、油粘土で新たに形を作って、石膏で型を取って、樹脂でパーツを作って埋めた。
・指示通りに仮組みした後、監修者に「違う」と指示されたら、その部分をバラして組み直すが、全体が関連しているので、他もずれてしまい、組み直しがとても大変だった。
・仮組みでポーズが決まったら、レプリカを真っ二つに切って、中に鉄のパイプを通して再調整する(バラバラの骨を1個体の骨格に組み直す)。
・鉄のパイプを組むための金具を自作した(ボルトだと錆やすいし傷みやすいため)
・オリジナルの化石の形に忠実に、かつ化石を絶対に傷つけない型どりを心がけている(まず化石の表面に筆でシリコンを薄く塗り、一度乾かして気泡をつぶす、など)
・皮膚の質感をだすために、シワを強調的に彫って、そこにティッシュを乗せたり詰めたりして、樹脂でコーティングすると、厚みが出たり、表面が滑らかになる(ティッシュでシワ加減を調整する)
・眼球は樹脂の板を熱整形して形を作って、水晶体と虹彩を裏から着色する
・毛の色は染めるのではなく、上から吹きつける(染めると均一になってしまうので、リアル感を出すためには多少のムラがあったほうがいい)
 ……などなど。
 この他にも、今回の化石復元や展示の仕事に関わることになったきっかけなど、いろいろな意味で参考になる情報がたくさんありました。
 博物館の展示は、目玉をどう見せるかとか、すべての展示物をどう並べるかということの他にも、避難経路とか、人が1カ所に対流しないようにとか、安全面とか、予算とか、考えなければいけないことがたくさんあるようです。
 博物館の展示づくりや古生物復元の仕事を、実例を通して具体的に紹介してくれる本でした。とても参考になるので、みなさんも、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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