『人類が進化する未来 世界の科学者が考えていること (PHP新書)』2021/11/17
ジェニファー・ダウドナ (著), デビッド・A・シンクレア (著), リサ・ランドール (著),
国際ジャーナリストの大野さんが、世界の科学者8名に、「これからの進化論」について問いかけたインタビュー集で、内容は次の通りです。
◆ジェニファー・ダウドナ(化学者・2020年ノーベル化学賞受賞)
――ゲノム編集はヒトの希望か
◆デビッド・A・シンクレア(科学者・『LIFESPAN』著者)
――「人生200年時代」の到来
◆リサ・ランドール(理論物理学者・多元宇宙理論の研究者)
――「目に見えない」宇宙の秘密
◆ジョセフ・ヘンリック(人類学者)
――人類は「自己家畜化」に陥っている
◆ジョナサン・シルバータウン(進化生態学者)
――AIに料理はできるか
◆チャールズ・コケル(宇宙生物学者)
――物理法則に制限される生命
◆マーティン・リース(宇宙物理学者)
――世界大戦が起きれば数分で終わる
◆ジョナサン・B・ロソス(生物学者)
――宇宙に「知性」は存在するか
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世界的に有名な科学者の方ばかりなので、インタビュー(問いかけ)への応答もとても明快で、参考になることが多かったです。一人一章ずつで、章の初めに、その方の研究の概要(および写真)が見開きページで紹介された後、インタビューが始まり、「科学は人類を何処へ誘うか(人類が進化する未来)」についての考え方を問いかけます。
印象に残った文章を、少しだけ以下に紹介します。
◆ジェニファー・ダウドナ(化学者・2020年ノーベル化学賞受賞)
「(前略)すでに初期世代のゲノム編集技術がHIVの治療に使われています。感染の元になるタンパク質(の遺伝子)をゲノム編集で改変し、除去することで、ウイルス感染から自らの血液を守る方法です。」
◆デビッド・A・シンクレア(科学者・『LIFESPAN』著者)
「(年齢の逆行が可能になりつつある)たとえば、眼球や網膜の再プログラム化です。一回のリセットで、高齢のマウスの視力を回復することができます。もし再プログラム化が身体全体で成功すれば、100回ほどリセットして身体機能を戻すことが可能になります。」
「人間はエクササイズをしたり、健康的な食事をしたりすると、エピジェネティクス情報を失うプロセスを減速させることができます。われわれは、細胞を再プログラム化することで、細胞内に若さのバックアップコピーと言えるものを発見しました。若い時の情報が、まるでハードディスクのように細胞に組み込まれています。それを再起動することで、細胞が若い時の遺伝子を正しい方法で読み取れる状態に戻れるのです。」
◆リサ・ランドール(理論物理学者・多元宇宙理論の研究者)
「(前略)ここで捨てるべきは、すべての物質は原子で成り立っているという固定観念です。(中略)宇宙を構成する未知の物質には原子(や原子を構成する素粒子)以外から成り立ってつものがあるかもしれません。こういう新しいタイプの物質観はそれほど奇抜なものではないでしょう。」
◆ジョセフ・ヘンリック(人類学者)
「ヒトの種としての成功の秘密は問題を解決する個々の能力ではない、ということです。(中略)ヒトは前の世代から行動様式を学んで改良し、新しいアイデアやテクノロジーを次世代に伝えることで、何世代にもわたって適応してきました。」
「文化の伝播によって、われわれは環境に応じてうまく適応できるようになったということです。」
◆ジョナサン・シルバータウン(進化生態学者)
「(前略)ヘルシーな食べ物を楽しむ方法はたくさんあるが、料理はあまり加工されていない、適度な量の植物を主体にするほうがよい、ということです。食物繊維が豊富な野菜は必要な栄養素をすべて与えてくれます。あと適度な運動が重要です。日常的に身体を動かして、食べる量を減らすのがヘルシーな食生活だといえます。」
◆チャールズ・コケル(宇宙生物学者)
「(前略)彼ら(人間以外の生命体)に特定のリーダーはいないのです。一見、組織化されたようにみえる生命体の行動は、体内のさまざまな信号のやりとりによる単純なインタラクションの結果にすぎません。」
「(前略)ほとんどの生命体の集団行動は、われわれが考えているよりもはるかに予測可能であり、そのインタラクションを単純な方程式で表すことができる、ということです。」
「(前略)生命の核になる形は必然です。それは物理学によって形成され、予測することができます。偶然による細部は予測できません。(中略)細部には無限の多様性があります。」
◆マーティン・リース(宇宙物理学者)
「軍事ドローンは戦争の性質を変えてしまいます。AIは非常に速くミッションを完遂できる。第三次世界大戦がまた起きるとすれば、数分で終わるでしょう。」
「反社会的な行為に手を染めるような、社会に不満を抱く層を減らすのは政治の役割であり、重要な目標の一つでしょう。多くの人のニーズや希望を満たし、政府に対して極端に反感を覚える人が多くならないようにすることです。しかし現実には無理でしょうから、そういう人々に対処しつつも共存するしかないのです。」
◆ジョナサン・B・ロソス(生物学者)
「重要なことは、環境に適応する方法はたくさんあるということです。同じ環境でも、種にとって適応の仕方は非常に異なるということです。」
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……など。ここではごく一部しか紹介していませんが、他にも興味深い話がたくさんありました。
例えばマーティン・リースさんは、身体を液体窒素で凍結させて、人間が不老不死に達することができたとき、または脳がダウンロードされるようになったときに、蘇生させて欲しいと考えて、それを実行する人は「身勝手」だと言っています。そういう人は、「過去からの難民」のような存在になるし、ケアしてもらえるかどうかも分からない、というのが理由のようでした。でも……個人的にはそれほど身勝手なようには思いませんでした。凍結された人々は、解凍後の生活がモニターされることになるはずで、それは彼ら自身のケアに不可欠なだけでなく、未来人にとっても、凍結人体の蘇生&不死化が貴重な「経験値」として役立つはずだからです。彼らは「過去からの難民」ではなく、「実験生物」のような存在になるのではないでしょうか。それは両方にとって、メリットがあると思います(しかも凍結運営会社も利益を得られますし)。
……ちょっと脱線してしまいましたが、この本にはこのような、ちょっと刺激的な『人類が進化する未来』もあって、とても面白く読めました。各章とも、あまり長くないので、移動時間を有効活用するための科学読み物としても最適だと思います。興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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