『脳と人工知能をつないだら、人間の能力はどこまで拡張できるのか 脳AI融合の最前線』2021/12/16
紺野 大地 (著), 池谷 裕二 (著)
脳と人工知能(AI)の融合研究によって、これまでは想像もできなかったような成果が次々と生まれ始めています。二つの研究分野の最先端で、今何が起こっているのか。そして未来には何が起こるのか。脳に知識をダウンロードできたら? 互いの脳をインターネットでつなぐことができたら? SFのような未来が可能になりつつあることを感じさせてくれる本です。
「ルールをもとにAI同士で対戦学習するだけで、人類最高を3時間で超えられたMuZero」とか、「念じるだけでロボットをあやつる」とか、「人工網膜システム」とか、AIの進化は驚異的なスピードで進んでいますが、この本ではさらに驚く事実を知らされました。
「第2章 脳とAI融合の「現在」」では、驚きの人工知能「GPT-3(自然言語で出した指示に柔軟に答えてくれる人工知能)」が紹介されていました。GPT-3の前身のGPT-2は「こういう指示を受けた場合にはこういう返答をする」という関係性を自ら学んでいくAIで、「トランプ前大統領がいいそうなツイートを作って」と指示すると、「私は強いリーダーシップと決意を持っている。アメリカは常に勝者だ!」という文章を返す機能があったそうですが、GPT-3はそれ以上の能力があるそうです。次のように書いてありました。
「GPT-3は、文章を創り出すだけにとどまらない進歩を見せました。GPT-3はなんと、出された指示に対してプログラミング言語で回答することまでできるようになったのです。(中略)
たとえば、「ネコとイヌの画像を分類するような人工知能を作って」と言葉で指示すると、そのような人工知能のプログラミングコードをゼロから書いてくれますし、「インスタグラムのようなアプリを作って」と指示すると、まるでインスタグラムのような見た目と機能を持ったアプリを作るためのプログラムコードを書いてくれるというのです!」
……ええっ! そんな簡単な指示で、そんな長いプログラムを作ってくれるんですか! たっ、大変だー……。しかもGPT-3は作り方も信じられない方法のようです。
「世間を驚愕させたGPT-3ですが、(中略)実はGPT-3の作り方は単純で、インターネット上に存在する膨大な文章をGPT-3に入力し続けることで、GPT-3に「こういう指示を受けた場合にはこういう返答をする」という関係性をひたすら学ばせていくのです。(中略)このようにGPT-3を作る発想自体は単純ですが、驚きなのはGPT-3に読み込ませた文章の量です。(中略)3000億単語という、ちょっと想像もできないような量です。」
……こんな作り方をされているも関わらず、GPT-3の実力は本物のようで、タイトルとわずか数行のごく簡単な内容を与えられたGPT-3が書いたブログ記事が、ニュースサイトの閲覧ランキングで1位になり、これを読んで人工知能が書いたのではないかと疑ったのはわずか数人だったそうです。うーん……人間の「知的な」仕事までAIに奪われる日は意外に近いのだろうか……。
さらに言語で出した指示をもとに絵を描いてくれる人工知能DALL・Eは、「チュチュを着た大根の赤ちゃんが犬の散歩をしているイラスト」というリクエストに応じたイラストまで描けるのです! 数個のイラスト画像を見る限り、本当に違和感がない可愛い大根の赤ちゃんたちで……これがAIの作画かと思うと……なんかヘコんでしまいました(涙)。
でも……これらの結果をじっくり見直すと、本当にこれ、AIが一から作ったものなのかなー? という疑いが。私たち人間も、要領がよくて賢い人は、頼まれた仕事に、「似たようなもの(雛形)」をもとにリクエストに合うよう細かい修正を加えるという方法で対処しますが、AIも「雛形」がある仕事が得意なような気がします。だからまだ「本当に賢い人間」を凌駕するまでには至っていないのだと思いますが、その仕事のビギナーのレベルは超えているのかも。いや……ビギナーというより、経験豊富だけど少し頭が固くなっているベテランって感じ?
もっとも「ルールをもとにAI同士で対戦学習するだけで、人類最高を3時間で超えられたMuZero」のように、本当に「自律的にそのゲームの本質を理解した」としか思えないAIもあるので、AIの能力が物凄く高まっていることは確実だと思います。(この場合は、厳格なルールが定まっていることが、AIの助けになっているのでしょう。)
この他にも、「ドイツのベンチャー企業が提供している翻訳システムDeepLはGoogle翻訳を上回る精度を示し、研究論文を読むのに使えるレベル(無料利用可。一部有料)」とか、「2020年7月 AIロボットが自律的に化学実験を行い、適切な化合物を8日間で見つけ出した」とか、「中国では、2017年時点で人工知能ドクター(シャオイー)が中国の医師国家試験に合格」とか、AIが驚きの「知的」進化をしている事例をたくさん知ることが出来ました。
またAIは精神疾患の治療にも役立つのかもしれません。AIとビッグデータを利用して精神疾患のバイオマーカーを見つけようとする試みが進んでいるのだとか。例えば、うつ病と健康な人の安静時の脳の機能的磁気共鳴画像(fMRI)をデータとして学習させると、うつ病特有の脳活動が見つかり、それをバイオマーカーとして利用すると70%の精度でうつ病を診断できたそうです。
「脳の画像からうつ病だけに見られる特徴を人工知能が見つけ出すという手法の利点は、うつ病のみならずあらゆる精神疾患に応用することができることです。」
……精神疾患はまだ診断方法が確立していない部分が多いので、こういう試みには大いに期待してしまいます。
この他にも、脳に電極を埋め込むNeuralinkの試みとか、「池谷脳AI融合プロジェクト:脳の潜在能力を見極める4つの研究(脳チップ移植、脳AI融合、インターネット脳、脳脳融合)」など、興味深い記事が満載。しかも紺野さん(池谷さん)は文章がとても上手で、脳AI融合の最新情報を、とても分かりやすく紹介してくれるのです。だから、一般の方が脳や人工知能(AI)を勉強するためにも最適な本だと思います。ぜひ読んでみてください。お勧めです☆
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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