『宇宙はなぜ物質でできているのか 素粒子の謎とKEKの挑戦 (集英社新書)』2021/10/15
小林 誠 (著)

「消えた反物質の謎」のカギを握る小林・益川理論や、実験の最前線と未解決の謎(宇宙はなぜ物質でできているのか)を解説してくれる本で、内容は次の通りです。
第一章 素粒子の標準模型とCP対称性の破れ(素粒子物理学の歴史)
第二章 加速器実験の歴史
第三章 小林・益川理論を検証せよ~PART1
第四章 小林・益川理論を検証せよ~PART2
第五章 ニュートリノとCP対称性の破れ
第六章 「新しい物理」と加速器科学の未来
   *
「宇宙はなぜ物質でできているのか」については、残念ながらまだ未解明の謎のようです。解明のためには「物質がどの段階でどのように残ったのか(反物質がどのように消えたのか)は、素粒子と相互作用の全リストを明らかにして、全体のシナリオを書いてみないとわかりません」が、それらはまだ明らかになっていないからです。
 とは言っても、確実に解明しつつあるようで、この本は、素粒子物理学の歴史や基礎知識、研究や実験の最前線を紹介してくれます。
 個人的にすごく興味津々だったのは、「東海村のJ-PARCでつくったニュートリノビームを、二九五キロメートル先にある神岡のスーパーカミオカンデに打ち込む」という驚きの実験に関する「第五章 ニュートリノとCP対称性の破れ」。少し長いですが、その一部を以下に紹介します。
「ニュートリノは「ニュートラル(中性の)」という言葉が語源になっていることからもわかるとおり、電荷を持たないレプトンです。中性子のベータ崩壊で質量がわずかに失われてしまうことから、「エネルギーの一部を持ち去る粒子があるはずだ」と、その存在が予言されていました。」
「小林・益川理論は、クオークが三世代・六種類以上あればCP対称性を破ることができるというものでした。」
「クォークと同じように三世代あるならば、ニュートリノでCP対称性が破れても不思議ではないでしょう。ただし、そのためにはニュートリノに質量がなければいけません。クォークのCP対称性の破れも、六種類のクォークに質量の違いがあることが、重要な意味を持っていました。」
「(前略)一九九八年にスーパーカミオカンデ実験でニュートリノ振動が発見されたことで、ニュートリノに質量があることがわかりました。飛行中にニュートリノが別の種類に変化するのは、二種類以上の質量が混じっているからです。質量がわずかに異なる三種類の状態の混合割合によってニュートリノの種類が決まり、飛行中にその混ざり方の位相が少しずつズレていくことで振動が起こるのです。」
「さて、ニュートリノがCP対称性を破るためには、(中略)電子ニュートリノ、ミューニュートリノ、タウニュートリノのいずれもが三種類の混合した状態であることが必要です。そのためには、電子ニュートリノに三番目の質量が混じっていることをたしかめなければなりません。
 そこで、これを検証するために計画されたのがT2K実験でした。東海村のJ-PARCでつくったニュートリノビームを、二九五キロメートル先にある神岡のスーパーカミオカンデに打ち込む実験です。」
 ……そして、この実験などの結果、二〇一三年に三種類の混合を決定した他、ニュートリノ振動によりニュートリノが別の種類に変わったことを、世界で初めて直接測定できたそうです。
 ちなみに、CP対称性とは、粒子と反粒子が持つその対等な性質のことで、CP対称性が破れているなら、粒子と反粒子には本質的な違いがあることになるのだとか。これは「消えた反物質の謎(宇宙はなぜ物質でできているのか)」に迫るためのカギになるようです。
 素粒子物理学の歴史や基礎知識、研究の最前線を紹介してくれる本で、とても参考になりました。素粒子というメチャ小さいものを研究するためには、大型加速器とかスーパーカミオカンデのようなメチャ巨大な施設が必要なんですね。その研究の実際の方法を具体的に知ることが出来ました。興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
   *    *    *
 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
<Amazon商品リンク>