『人口減少社会のデザイン』2019/9/20
広井 良典 (著)
2050年、日本は持続可能か? 借金の先送り、格差拡大、社会的孤立の進行………人口減少時代社会のなかで日本の現状や今後を考察し、転換を図るための10の提言をしている本です。
「イントロダクション」には、次のように書いてありました。
「私たちの研究の出発点にあったのは、現在の日本社会は「持続可能性」という点において「危機的」と言わざるとえない状況にあるという問題意識である。」
とりわけ次の3点が問題だと言います。
1)借金の先送り(政府の債務残高・借金が国際的に見ても際立って大きな規模)
2)格差拡大と人口減少
3)社会的孤立の進行
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日本で問題になっている「高齢化」は、実は日本だけでなく地球的に進んでいるのだそうです。そして日本の場合は、高齢化を一つの契機ないしチャンスとして、「コミュニティ空間」重視の歩行者中心の町の実現という発想が重要ではないかと言っています。
資本主義社会のこれまでの「限りない拡大・成長」ベクトルは、地球資源の有限性といった物質的・外面的な意味でも、「幸福」といった精神的充足の面でも、ある種の飽和点ないし限界に達しつつあると考えられます。
そしてこれから「第4の拡大・成長の可能性」があるとしたら、1)人工光合成(人間も光合成できるようになる)、2)地球脱出または宇宙進出、3)シンギュラリティ(ポスト・ヒューマン)の3つの道が想定できますが、広井さんは、これらの「限りない拡大・成長」路線ではなく、「定常期の文化的創造性」という発想も参照しながら、地球や人間の有限性を踏まえた上での新たな豊かさや創造性、あるいは「持続可能な福祉社会」と呼ぶべき方向の実現が追究されるべきものと考えているそうです。
そして「第4章 社会保障と資本主義の進化」には、次のように書いてありました。
「(前略)人口減少社会は、こうした戦後の日本社会、あるいは明治期以降の日本社会を特徴づけたありようや思考の枠組みが根本から変わる時代であり、将来世代を含めた持続可能性という(中長期の)視点をもつと同時に、そもそも分配の公正や公平、平等とは一体何かといった、(日本人が忌避しがちな)「原理・原則」に関する議論や社会システムの再編を正面から行っていくべき時代である。そうでなければ、事態はやがて「パイの奪い合い」に向かうか、将来世界へのツケ回しが限界に達して破局に至ることになる。」
さらに考察は、医療、死生観、持続可能な福祉社会へと続き、今後の進むべき提言も述べられていました。「あとがき」には、本書内で提起された主要な論点・提言の10項目がまとめられていたので、以下にその概要を紹介させていただきます。
1 将来世代への借金のツケ回しを早急に解消
2 「人生前半の社会保障」、若い世代への支援強化
3 「多極集中」社会の実現と、「歩いて楽しめる」まちづくり
4 「都市と農村の持続可能な相互依存」を実現する様々な再分配システムの導入
5 企業行動ないし経営理念の軸足は「拡大・成長」から「持続可能性」へ
6 「生命」を軸とした「ポスト情報化」分散型社会システムの構想
7 21世紀「グローバル定常型社会」のフロントランナー日本としての発信
8 環境・福祉・経済が調和した「持続可能な福祉社会」モデルの実現
9 「福祉思想」の再構築、“鎮守の森”に近代的「個人」を融合した「倫理」の確立
10 人類史「3度目の定常化」時代、新たな「地球倫理」の創発と深化
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このうち後半の6~10は理念に関わる内容ですが、1~5はかなり具体的な内容(消費税を含む税水準の引き上げ、若者支援への配分増加など)で、日本の現状の問題の打開と今後の方向性を検討する際に参考になりそうに感じました。
人口減少社会・日本の今後を考える『人口減少社会のデザイン』です。興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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