『統計学が最強の学問である[実践編]—データ分析のための思想と方法』2014/10/24
西内 啓 (著)

 平均値や標準偏差など統計学で使用される用語の本質的な意味から、分析の現場での実際の手順まで、実践的に分かりやすく教えてくれる本です。
 著者によると「既存の入門書と異なる本書の大きな特徴は、数式を追わなくても文章と図だけで理解できるように、すべての解説がなされている点にある」だそうですが……、前著『統計学が最強の学問である』よりは、かなり難しい内容になっています。というのも、前著は「統計学が現代社会で果たしている実用性」について解説したもので、実際の統計手法を教えてくれる本ではなかったからです。
 それに対して、この『統計学が最強の学問である[実践編]』は、実際の統計用語や手法について、(他の統計学のテキストよりは)かなり分かりやすく解説してくれる本なので、これから統計学を学ぼうと考えている方にとって、真の意味での入門書になると思います。
 すごく参考になったのは、「第1章 統計学の実践は基本の見直しから始まる」の「洞察には、中央値よりも平均値の方が使い勝手が良い」という話。
 実は、「現状把握の統計学では、平均値だけで物事を判断してはいけない」とよく言われていて、この本の中でも実際に、「所得の平均値」を考えるときの事例として「8人の従業員(全員300万)と1人の重役(2100万)」をあげています。この場合、平均値(500万)の方は、たった一人の重役の値で押上げられているので、適切な現状把握をするのには、中央値や最頻値(=300万)を利用した方がいいのです。
 ところが、それにも関わらず「洞察のための統計学では、平均値の方が真実を捉えることが出来る」と言うのです。
 それは、平均値の方が「何らかの要因を変えれば結果の値の総量がどうなるか」の答えを得やすい(良い推定値になる)から。中央値だと、その答えが出ないからだそうで……ああ、なるほどと思いました。しかもデータから中央値を探すのは結構大変ですが、平均値なら計算で簡単に求めることも出来ますし。
 このように、この本は、重要な統計用語を、その本質的な部分まで詳しく解説してくれるので、とても分かりやすいと思います(他のテキストよりは、ですが……)。
 なお、本文中には、数式がとても少ないのですが、巻末には、数学的な捕捉がありますので、さらに詳しく知りたい人や、数式で理解したい人にとっても、使い勝手が良いと思います。
 売上を上げるためにデータの分析をしなければならなくなったなど、仕事で統計を使うことになったけど、統計学のテキストを見ると数式だらけで頭が痛くなる……という方には、お勧めしたい統計学の入門書です。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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