『声のための教科書』2021/6/4
高橋寿和 (著)

 解剖生理学、音声学に基づいたT.V.P式ボイストレーニングで、声を鍛えて体も健康に美しくする方法を教えてくれる本です。
 声を鍛えることは、身体を鍛えることにも通じているので、健康になるだけでなく、次の効果もあるそうです。
「他人とコミュニケーションを図る上で、「声の質」や「よく響き、通る声」は意思の疎通をスムーズに図るスキルであり、同じ内容を話していても、より説得力をもちます。」
 また高齢者の方にとっては、声の老化を防ぐ、誤嚥性肺炎を防ぐなどの効果も期待できるとか。
「呼吸をする際は、声帯の入口(声門)は開いたままの状態で、声を出すときに閉鎖筋が動き声門が閉じます。呼気が通り抜けることによって声帯が振動し、音が出ます。声帯が厚く長ければ音が低くなり、薄く短ければ音が高くなります。音が出るのは物理現象なので、閉鎖筋が衰えると声帯がたるみ、閉じにくくなるため、呼吸が漏れ出し、高い声や大きな声が出しにくくなり、「話し声が低くなる、声がかすれる」などの症状(声帯の老化)が起きたり、嚥下障がいや誤嚥性肺炎を引き起こしやすくなったりします。」
 そして、ボイストレーニングのポイントは、1)呼吸法、2)発声法にあるそうです。
 なかでも「止息」というトレーニングが重要なように感じました。
「高齢になると、重いものが持てなくなる、踏ん張れなくなるということが起こるのは、身体の筋力が落ちただけでなく、声帯筋が衰え、声帯委縮が始まり加齢と共に閉じなくなることで「止息」の力が弱まるからなのです。
 ボイストレーニングで「止息運動」を行うことで、声帯筋や閉鎖筋、披裂筋を鍛えることは、発声を良くするだけではなく、生活するうえで必要な筋肉を鍛えることに繋がっているのです。」
 この「止息運動」は、「まずは、腰を掛けた状態で息をたくさん鼻から吸います。吸いきったところで口を開けたまま息を十秒間止めます。この状態を声帯が蓋をしている止息と言います。休息をとりながら五回セット練習します。」というものでした。
 また止息運動で声帯筋を鍛えるトレーニングとしては、次のような方法もあります。
「(体はまっすぐに立ち、)地声で「アッ」と声を出し、息を止める。「アッ」と声を出し息を止める。これを五十回以上を目安として繰り返し、声帯を開閉する発声練習です。このトレーニングは、瞬発力はもちろん、声帯原音を大きく。左右の声帯のバランスを整え、高音を出しやすくするとても重要なトレーニングです。」
 この他にも、「顔面筋・表情筋のトレーニング」、「舌筋・舌根トレーニング・滑舌」、「顎のトレーニング」、「ストレッチ」、「胸式呼吸」、「腹式呼吸」、「発声のトレーニング」、「声帯筋を鍛えるトレーニング」、「喉仏を上下に動かすトレーニング」、「スタッカート(アクセント)のトレーニング」、「濁音と擬音語のトレーニング」、「高齢者の体操」などなど、とても覚えきれないほどのトレーニング法が掲載されていました。
 うーん、効果がありそうだけど、どれをやったらいいのかなあ。全部やると2時間以上かかりそう……と思っていたら、「第6章 ボイストレーニングのあれこれ」に、T.V.P式ボイストレーニングを受けた方の事例が書いてありました。
 例えば、声帯の筋肉の左右バランスが違っているために声枯れが起きている人は、「腹式呼吸」、「舌を上に引っ張る」、「喉仏を条辺に動かす」、「地声で呼吸を止めて声を出す」、「子音を使って声帯に空気を強く当てる」などのトレーニングをして症状が改善したようです。
 数ケースの事例があったので、自分の症状を考えて、効果がありそうなトレーニングを試してみるといいかもしれません。
 どのトレーニングも、それほど難しくないような感じだったので、無理をしない程度にやってみる価値はありそうに感じました(TAKAHASHI VOICE PRODUCTIONのホームページもあるようです)。
「声」の健康と印象向上を促進するトレーニング法を教えてくれる本でした。興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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