『天才科学者はこう考える 読むだけで頭がよくなる151の視点』2020/3/12
ジョン・ブロックマン (編集), 夏目 大 (翻訳), 花塚 恵 (翻訳)
一流の研究者・思想家しか入会が許されないオンラインサロン「エッジ」会員151名が、「制約があると創造性が向上する」、「『確信のない結論』のほうが信頼できる」、「意見をいくら集めても事実にはならない」などの科学の視点を伝授してくれる本です。
『天才科学者はこう考える 読むだけで頭がよくなる151の視点』という魅力的な副題を持っている本だったので、すごく期待して読み始めたのですが……残念ながら、読むだけで頭がすぐに良くなりそうな感じはあまりしませんでした……もしかしたら、すでに頭がいいからなのからなのでしょう……たぶん……(笑)。
この本は、「エッジ」の今回の問い「人々の認知能力を向上させうる科学的な概念は何か?」を受けて、会員の科学者たちがエッセイを書いているようですが、この問いへの応えになっているのかどうか不明なエッセイもあり、かなり散漫な印象を受けました。しかもエッセイの質も玉石混交で、参考になる意見もありましたが、特に目新しくもないと感じる意見もあり、天才科学者もやっつけ仕事をすることもあるよねと読み飛ばしてしまったものもありました。だから個人的には、この本に「読むだけで頭がよくなる」ことをあまり強く期待しないほうがいいと思います。
それでも読む価値は十分あると思います。なにしろ、一つ一つのエッセイが数ページ以内と短いので、コーヒーブレイクなどの時間に読む「軽い読み物」として最適だからです。ここにエッセイを書いている人たちは、一流の研究者・思想家ばかりなので、何か思いがけないヒントをつかめることがあるかもしれません。
個人的に、参考になったことの一部を紹介すると次のような感じです。
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「因果関係」を理解できれば世界はより平和になる──複雑に絡み合う原因と結果
ジョン・トゥービーマン
「すでに得られている情報のうえに、また新たな情報をつけ加える、それを繰り返していると、私たちの知性は次第に向上していく。大事なのは、情報の積み重ねによって知りえた事実がたとえ気に食わなくても、この繰り返しをやめない姿勢だ。実際、気に食わない事実は多いし、そればかり聞かされている。
私たちは、自分自身や、自分の属する集団を当然のようにほかより優れていると思いがちだが、それは単なる自惚れ、勘違いだと知らされることが多い。私たちは皆、この世界について、はじめは恐ろしいくらい無知だ。この世界はひたすらに広く、複雑に入り組んでいて、不思議と驚きの連続だと感じられる。
無知から解放されるには、基礎に適切な考え方、態度が必要になる。何かを推測し、正しいか否かを実際に検証するという繰り返しが大切だ。それによって次々に新たな発見ができ、理解の幅が広がっていく。(中略)」
「道徳戦争をやめ、帰属錯誤に基づく判断もやめて、皆が複雑な因果関係を正しく認識しようと努力すれば、少なくとも今、人類に大きな損失をもたらしている破壊的な妄想の一部はなくせるはずだ。」
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この「大事なのは、情報の積み重ねによって知りえた事実がたとえ気に食わなくても、この繰り返しをやめない姿勢だ」という部分、科学者だけでなく、すべての人にとって、とても大切な態度だと思います。
この他にも、印象に残る文章をたくさん見つけることが出来ました。
「直感に反しているものが真実であると受け入れられたのは科学の持つ力のおかげである。(中略)科学の実験には、私たちを生来の思い込みや偏見、想像力の欠如から解放してくれる力があるのだ。」
「科学にとって大切なのは、常に懐疑に対して扉を開けておくこと」
「フラクタルになるのは、インターネットだけでなく、生物学的ネットワークに広く見られる特性でもある。どこかに意思を持った存在がいて設計図を描いたわけでもないのに、インターネットは、生物の進化と同様の統計法則に従って進化したのだ。その構造は、誰かが意図的に操作したわけではないにもかかわらず、ひとりでに生まれた。」
「科学の世界ではよく「手なずけるために名づける」という行為をよくする。また少なくとも、よくそういう考え方をすると思われている。ここに潜む問題は、現役の科学者でさえ、単に名前をつけただけで、何かを説明したような、あるいは理解したような気になりやすいということだ。」
「私たちは、常にまず予測ありきで世界を見て、世界を体験する。予測コーディングにより、私たち人間は、効率的に世界像を認識し、しかも比較的楽に、状況に応じた行動がとれる。」
「この世界は当然、私たちの感じている環世界よりも広いのに、通常、それを意識しない。(中略)環世界という概念が頭にあれば、まず、意見を言う人、批判する人がどの程度、自分が入手できない情報の多さ、見ることのできない世界の広さを意識し、謙虚な姿勢を保っているかを見ようとするだろう。その謙虚さのない人の言うことはまず聴くに値しない。」
「ネットワーク化された多忙な現代社会は、コミュニケーションや情報の流通が絶えず行われ、娯楽に事欠かない。そのせいか、何かが起きた理由を徹底的に調べて理解することから遠ざかるようになった。それが如実に表れているのが医療の現場だ。医師が根本原因を探ることはめったにない。高血圧、糖尿、喘息といったよくある症状が患者に見受けられたら、個々の体調に異変が生じた原因を突き止めようとすることなく、薬を処方する。(中略)
皮肉にも、このような状態になっている今は、理由を見つける能力がかつていなほど高い時代だ。だが、忙しすぎて究明する時間がない。」
「自分の信じている物事には覆る可能性があると認識しない限り、冷静な議論や成長は望めない。」
……などなど。
今、世界を主導する研究者や思想家たちが何を考えているかを垣間見ることが出来る本です。エッセイ集なので、気分転換などの短い時間に読むのに適していると思います。何か役に立つヒントを得られるかもしれません。読んでみてください。
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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