『恐竜まみれ :発掘現場は今日も命がけ』2019/6/26
小林 快次 (著)
未知の恐竜化石を求めて、1年の3分の1は発掘調査へ。ゴビ砂漠の灼熱、想像を絶する大濁流、「墜落しないよう祈れ」というアラスカのヘリを生き延びながら、歩きに歩く……恐竜に取り憑かれた小林さんが、その日常を明かしてくれる超スリリングな探検記です。
小林さんはよく化石を見つけることから「ファルコン・アイ(ハヤブサの眼)」の異名で呼ばれているそうです。その秘訣は、次の心がけにあるようでした。
「化石を見つけるには、人の歩いた形跡のないところ、つまり、歩きづらいところを敢えて歩くのだ。どんなに疲れていても、敢えて違う道を歩くように心がけ、常に化石が落ちていないか目を配る。」
……ただの幸運で見つけているわけではないんですね……。
それにしても……恐竜学者っていうのは、ほぼ探検家といってもいいような日常を送っているんですね(笑)。砂漠とか極寒の地とか「人がめったにいかない」地で化石を探し、夢中になりすぎると崖から落ちそうになったり濁流にのみ込まれそうになったり……まさに「発掘現場は今日も命がけ!」。
また「第3章 大発見は最終日の夕方に起きる」では、モンゴルで恐竜の巣(卵の化石)を最終日の夕方に発見してしまった時のことが、ユーモアたっぷりに紹介されていました。
「予期しない驚きのため、目の前にある巣が何なのか、しっかりと消化することができない。ただ、この発見がすごいということは、その瞬間、直感的にわかった。
(もう日が沈みそうなのに、何でこんなタイミングで発見を……)
口から出そうになったその言葉を飲み込み、地平線に沈もうとしている太陽を見つめながら、目の前の巣をどう処理するかを考える。あまりの時間のなさに、正直何をすることもできない。取り敢えずGPSユニットで緯度経度を計測し、フィールドノートにスケッチ。写真を撮って、一通りのデータを取る。
「また来年。来年にしましょう」
私は、自分に言い聞かせるように同じことを繰り返し言って、巣の上に土をかぶせた。」
……そして翌年、またみんなでモンゴルに戻ってきて、なんと18個もの恐竜の巣を見つけたそうです。こういう大変さもあるんですね。
そして驚かされたのは、「第8章 ついに出た、日本初の全身骨格」で書かれていた、あの「むかわ竜」を発見した時の発掘予算の金額! 尻尾の骨しか発見されていない段階で、それ以上の部分を探すための費用の巨額さに驚愕してしまいました。
「今回の発見は、貴重なもののはずだ。いや貴重なのだ。
崖を切り崩すと一言で言っても、数千万円は簡単にかかってしまう。これまで見つかっているのは、尻尾の骨14個。そして崖に残された尻尾の骨1個。この崖に残された骨を手掛かりに、何千万円というお金をかける決断を下すのだ。私の「全身骨格はあります!」という一言をみんなは信じて崖を切り崩すという。
むかわ町は、この化石の価値、そしてさらに発掘する必要性を理解してくれ、6000万円もの発掘予算をつけてくれることになった。」
……この段階では、「何も出ない」可能性もあったのに、よく決断できましたね……全身骨格が見つかって、本当に良かったと思います。博物館の目玉となる巨大恐竜の骨格って、こんなにも大金がかかっていたんですね……。
化石は高額で取引されることも多いので、盗掘も多いようです。「第4章 恐竜化石を「殺す」のは誰か」では、その問題について語っていました。
「日本で売られている化石は、中国、北米、アフリカなどからも来ている。各地での「乱獲」で、化石は確実になくなってしまう。骨目当てで、ただ掘り出してしまえば、貴重な情報は半分以上失われる。化石は掘るところから大事なのだ。」
そして「第9章 恐竜界50年の謎〝恐ろしい腕〟の正体は」のデイノケイルスの発掘でも、その問題と直面しています。
小林さんたちは2009年の夏に、盗掘現場での発掘作業でデイノケイルスの骨格の大部分を発掘したのですが、頭と手足が、誰かにもぎ取られたようになくなっていたそうです。
ところがなんと2011年に、その頭と手足を手にいれることができました。ミネラルショーで売れ残っていた骨格(密輸されたもの)が、何人かを介して研究者の手に渡ったのです。研究者が小林さんたちに連絡してくれて、確認したところ、まさに盗掘現場から運ばれてきた頭と手足! これでデイノケイルスの骨格全部が揃ったのだとか……こんなこともあるんですね。
迫り来る「敵」はハイイログマ、毒ヘビ、はたまた盗掘者……まさに「発掘現場は今日も命がけ」。恐竜学者の砂まみれ、汗だらけ、命がけの日常を垣間見せてくれる、面白くて勉強にもなる探検記でした。恐竜や化石好きの方はもちろん、フィールドワークが好きな方も、ぜひ読んでみてください☆
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