『恐竜研究の最前線: 謎はいかにして解き明かされたのか』2021/6/29
マイケル・J・ベントン (著), 久保田 克博 (監修, 翻訳),
古生物研究者のベントンさんが、ご自身の研究・経験をもとに、恐竜研究の最新の発見と証拠を示し、読者を発掘現場から博物館、研究所の舞台裏まで案内してくれる本です。
子どもの頃、絵本で恐竜を見て、大昔はこんな大きな生き物がそこらじゅうをのしのし歩いていたんだなー、すごいなーと想像を膨らませていましたが、映画『ジュラシック・パーク』を見た頃、絵本ではなく恐竜の本を読んでみたら、恐竜については、その「色」がほとんど分かっていないという事実を知って衝撃を受けました。ええー? ティラノザウルスとかステゴザウルスって、絵本の色と違っているかもしれないってこと? もしもティラノザウルスがピンクとかだったら……イメージと違いすぎなんですけど……(涙)。
幸い(?)今のところ、ティラノザウルスの色はまだ不明のままのようですが、一部の恐竜については、本来の「色」が科学的に推定できるようになったそうです。それは化石から「メラノソーム」が発見されたから。次のように書いてありました。
「1億2500万年前の羽毛化石に、メラノソームが存在したのだ。
メラノソームは体毛や羽毛の内部にある袋状の器官で、内部にメラニンを含んでいる。メラニンとは、体毛や羽毛に黒、茶、グレー、赤などの色を与える色素のことだ。私たちは世界で初めて(少なくも記憶に残っている中では)、恐竜がメラノソームを保有した痕跡を発見したのだ。私たちの推察が正しければ、これは羽毛の元の色を示す証拠となる。私たちはついに、恐竜の本当の色を特定したと言えるのだ。」
「羽毛の小片はシノサウロプテリクスのものだった。(中略)私たちが特定したメラノソームは、羽毛のケラチン内にある袋状の組織で、羽毛の成長とともにメラニン色素が内腔に入り込む。試料に含まれるメラノソームが球状であることから、シノサウロプテリクスは赤褐色で、尾が赤褐色と白色の縞模様だったと推察された。」
実は、「茶~黒色メラニンはソーセージ状のメラノソームに含まれ、赤褐色メラニンは球形のメラノソームに含まれる」ので、このように推察できるようです。……かなり派手な色の恐竜だったんですね。
また映画『ジュラシック・パーク』では、DNAから恐竜を復活させていましたが、「DNAはわずか2,000~3,000年しか残存しない」ので、現在のところ、恐竜の復活は難しいようです。「古代の有機分子を見つけるには、リグニン、キチン、メラニンなどを探すべきである。」ということで、メラニンは残存期間が長いので、科学的な色の推定が出来るのだとか。
この本は、この20年ほどの新しい技術の発展により、恐竜の色、咬合力、走る速度や子育ての様子など、化石に隠された謎が思いがけない方法で次々と明らかにされていく経緯をじっくり紹介してくれます。
例えば、生きている動物をモデルにする手法(モダンアナログ法)や、解析対象とする物体の3Dレンダリング(デジタルモデル)の工学解析、構造解析分析手法である有限要素解析、系統樹の復元、化石のCTスキャン、種学的手法などが、化石の謎の解明に、どのように使われてきたかを知ることが出来ました。
驚かされたのが、ずっと爬虫類(冷血)に近いと考えられてきた恐竜が、実は「温血」で鳥類に近いのかもしれないと推定されてきた根拠の一つが、化石の「骨」にあったこと。「第4章 呼吸と脳と行動パターン」には、次のように書いてありました。
「骨組織学者は、魚類や爬虫類など、現生の冷血動物は特に、骨に明瞭な層が見られる点に着目した。夏に著しい成長が見られ、冬場は成長が滞ることから、樹木の年輪のように成長線(成長輪)が刻まれるのだ。(中略)
一方、鳥類や哺乳類などの温血動物の骨には、明らかな層がほとんど見られない。体内温度を調節できるため、時期(季節)を問わず均一に成長し、骨には再形成(リモデリング)の痕跡が残る。骨再形成は、鳥類や哺乳類の高い新陳代謝の賜物で、もともとある骨構造を横断するような管状構造として現れる。骨の構成要素としてカルシウムやリンを蓄え、産卵や厳しい越冬の際にそれらの成分を役立てるのだ。恐竜の骨の構造は、爬虫類より鳥類や哺乳類の骨に近いことがわかっている。」
爬虫類や魚類には骨に年輪のような層があるんですか……知りませんでした。
この他にも、お目当ての化石がなかなか見つからない発掘現場の実態や、隕石衝突説の衝撃、仮説をめぐる研究者同士のやりとり、化石発掘の喜びと苦労など、恐竜研究の舞台裏を生き生きと語ってくれるので、とても読み応えがありました。恐竜のイラストや、発掘現場の写真、図表などのビジュアル資料も充実しています。
化石の研究者になりたい方はもちろん、恐竜好きの方、科学読み物が好きな方には、参考になる興味深い話が満載です。ぜひ読んでみてください☆
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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