『図説 世界地下名所百科』2021/2/18
クリス・フィッチ (著), 上京 恵 (翻訳)
カッパドキアの人々が戦乱をさけてつくりあげたトンネル都市(デリンクユ)、メキシコとアメリカの間にある麻薬密輸のトンネル、「地下神殿」こと首都圏外郭放水路など、世界中の地下の魅力的な名所のなりたちを、写真や地図で解説してくれる本で、紹介されている名所は次の通りです。
第一部 自然の造形
ワイトモ洞窟 ニュージーランド
ユカタンのセノーテ メキシコ
ポストイナ洞窟 スロベニア
ベロブキナ洞窟 ジョージア
カズムラ洞窟 アメリカ
クエバ・デ・ビラ・ルス メキシコ
ディア洞窟 マレーシア
パンド アメリカ
ダークスター洞窟 ウズベキスタン
古代巣穴 ブラジル
第二部 古代
ショーヴェ=ポン・ダルク フランス
デリンクユ トルコ
秦の始皇帝陵 中国
ヘルクラネウム イタリア
ラビリントス洞窟 ギリシャ
テノチティトラン メキシコ
バシリカ・シスタン トルコ
エレファンタ石窟群 インド
クムラン洞窟 イスラエル
クエバ・デ・ロス・タヨス エクアドル
第三部 近代
近代ロンドン地下鉄 イギリス
トンネル57 ドイツ
バーリントン イギリス
クーバーペディ オーストラリア
クチトンネル ベトナム
キャンプ・センチュリー グリーンランド
大人工河川 リビア
ゾンネンベルク スイス
ダルバザ・ガスクレーター トルクメニスタン
首都圏外郭放水路(GーCans) 日本
第四部 現代
大型ハドロン衝突型加速器 スイス/フランス
オタイメサ アメリカ/メキシコ
グアテマラシティの陥没穴 グアテマラ
スヴァールバル世界種子貯蔵庫 ノルウェー
ヘルシンキ地下都市 フィンランド
コルヴェジ鉱山 コンゴ民主共和国
エルサレム墓地 イスラエル
コンコルディア基地 南極大陸
ロサンゼルス・トンネル アメリカ
ヘトリスヘイジ アイスランド
とても美しくて神秘的に感じたのは、表紙の遺跡・イスタンブールの沈没宮殿。「ローマ時代の古い建築の遺跡から再利用された材料を用いた高さ9メートルの整然と並んだ柱336本が、内部の貯水池を支えている。」のだとか。『ロシアより愛をこめて』とか、『インフェルノ』などの映画の舞台にもなったそうですが……見てみたいですね……。
日本の地下名所は「首都圏外郭放水路」。「現代」かと思いきや、「近代」で取り上げられていました。完成したのは2000年代ですが、計画は1980年代、工事着工は1992年だからでしょうか。
戦争の残虐さや恐怖から身を守ろうと掘られたトンネルや、巨大地下施設なども見ごたえがあります。
驚かされたのが、「グアテマラシティの陥没穴」。次のように書いてありました。
「2010年の事故の報道では、グアテマラシティにできた陥没穴の直径およそ20メートル、深さ最大60メートルという途方もない大きさとともに、首都の地面に生じた穴のほぼ完全な円という形に注目が集まった。この陥没穴が突然現れた原因は石灰岩ではない。専門家は、数世紀にわたる噴火の結果積もった火山性の軽石などによる緩い堆積層の上にグアテマラシティが作られたという歴史を指摘した。堆積物は本来、舗装されたコンクリートの下で自由に動き回る性質があるため、このような事故が起こるのは必然だと言える。(中略)
事故を調査するため招集された専門家たちは即座に、建設工事のお粗末さと、建築基準がないことを指摘した。この陥没穴が生じたのは主にインフラの欠陥による。おそらくは下水道や排水管が熱帯暴風雨のもたらす大量の雨によって破裂したのだろう(近年のパカヤ火山の噴火により排水管に灰が詰まっていたのも災いした)。したがって、これは実質的には人災であり、自然な陥没ではない。それはグアテマラシティの住民にとって、まったくなんの慰めにもならない。地表に突然穴が開く危険と常に隣り合わせで生活せねばならなないのだから。」
……これ、写真で見ると本当にすごく驚きの光景なのです。こんなことって起きるんですね……。
この他、「ヘトリスヘイジ」では、炭素を水に溶かした後、たった2年でその大部分を玄武岩へと石化させるというCarbfixプロジェクトに驚かされました。
「これが大きな規模で成功すれば、こうしたプロセスは、ヘトリスヘイジと同じく玄武岩の岩盤にアクセスできる(そしてポンプで注入できるだけの充分な水の供給が得られる)ところなら世界中どこの発電所でも活用できるかもしれない。」ということなので、将来は日本でも活用できるのかもしれません。
世界中の地下名所を写真で紹介してくれる本で、とても興味津々でした。みなさんも、ぜひ眺めてみてください。
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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