『潜水士の道 ~五人の師匠から海の未来へ』2020/7/22
鉄 芳松 (著)
潜水士として40年以上働いてきた鉄さんが、5人の師匠に学んだ潜水士の仕事と生き方を語ってくれる本です。
その師匠5人とは、次のジャンルの師匠たちで、これを読むと、潜水の歴史、技術、仕事、さらには医学までを知ることが出来ます。
1.潜水の基本・ヘルメット潜水と造船関連工事の師匠
2.海外の潜水を経験し、スキューバダイビングの師匠
3.水中溶接・水中切断など水中作業全般の師匠
4.水深50㍍以上の深度潜水技術と定置網調査の師匠
5.常に潜水士の健康と安全のための潜水医学の師匠
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ダイビングをしたことはなかったので、実をいうと、とくに期待もせずに読み始めたのですが、日本のダイビングの歴史から、仕事まで本当に広範囲な『潜水士の道』をじっくり語ってくれる本で、とても読み応えがありました。
海底の建設作業や、漁業支援、レスキューなどの潜水の仕事だけでなく、潜水用具の試験や、潜水士の試験、医学関係まで、本当に多岐に渡っているので、ダイビングをしている人にとっては、すごく参考になる内容だと思います。
また、それだけではなく、ビジネスマンや経営者(組織のリーダー)にとっても、教えられることが多かったと感じました。それは鉄さん自身が、どんな時にもポジティブで、素直に他人から学ぼうとしてきたからなのだと思います。
どの師匠も素晴らしい教えを鉄さんに与えてくれていて、それを鉄さん自身も次世代につなげていこうとしていることに感動させられました。
例えば「3.水中溶接・水中切断など水中作業全般の師匠」から学んだことは、次のようなことです。
1、常に背後に視線を感じよ。
1、人を選ぶ厳しい目を持ち、人は風格で見抜け。言葉は人である。
1、自然と協力される人となれ。
1、投資する時は、自分の金で、金を借りたら金利をつけ、約束日より前に返せ。
1、一流の人となるには、自ら訓練をせよ。
1、潜水士は稼いでいくらだ。
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これって、すべてのビジネスマンにも通じることですよね。また、「日常の話から学んだ大事なこと」は次の通りです。
1、技術は盗めても、体験・経験は盗めない。
1、厳しい言葉を言うも聞くも悔いを残すな。
1、失敗のいいわけを言え。
1、仕事には厳しく、人には情を。
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これもとても大事なことだと思います。「失敗のいいわけを言え。」は、「失敗の理由を関係者で共有することで次の失敗を防ぐ」だけでなく、「失敗による関係者の感情的しこりを防ぐ」ためにも大事なことですよね。
さらに、未来の地球環境を良くするために、最後の章では、次のように「ブルーカーボン」の提案もしています(以下に紹介するのは、対談相手の畠山さんの言葉です)。
「地球上には、HNLC海域という、栄養塩は高いのに植物プランクトンの発生が少ない海域があり、五十年ほど前まで海洋学者にとってのミッシングでした。それを解明したのがアメリカの分析化学者ジョン・マーチンで、その海域では鉄分が物凄く少ないことを発見したのです。(中略)HNLC海域の水を採取し、鉄分を加えてみたら、植物プランクトンが大爆発したということです。近年、ブルーカーボンということが盛んに言われていますね。陸の二酸化炭素の固定化は言われるが、海に大森林があることを、世界の学者は気づいていなかったということです。」
潜水の歴史、技術から仕事の実情、さらに海洋環境の未来まで、まさに『潜水士の道』を教えてくれる本でした。海の仕事をしている方はもちろん、それ以外の方にも、ぜひ読んで欲しいと思います。
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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