『人類20万年 遥かなる旅路』2016/4/8
アリス ロバーツ (著), Alice Roberts (原著), 野中 香方子 (翻訳)

 人類はどこから来たのか……人類にまつわる謎に魅せられた英国女性人類学者が、出アフリカから南米到達まで、太古の人類の足跡をたどる旅に出る……BBCのドキュメンタリー番組を書籍化した本です。
 人類学や考古学など幅広い知見が盛り込まれていますが、一般の読者向けに書かれているので、とても読みやすいと思います。
 特に参考になったのは「序文」。ヒトの系統樹、石器などの遺物からたどる考古学など、人類の祖先を辿るのに有効な知識が幅広く紹介されています。祖先の手がかりは、地中から掘り起こされる骨だけでなく、私たちのDNAの中にも残されているとか、「言語学者」も、語族という方向から人類の歴史を再現しようとしてきたとか、太古の人類をたどる研究に興味津々でした。その他、石器の基本ガイドとか、年代測定法(放射性年代測定法、ルミネッセンス年代測定法、他)とか、ミトコンドリアDNAで母方の系統を遡れる(父方の系統を遡るにはY染色体を用いる)など、考古学の基礎情報も紹介してもらえます。
 さあ前提知識の準備ができました。私たち人類の祖先を辿る旅に出かけましょう☆
 旅は「もちろん」アフリカから始まります(笑)。ご存じのように、現人類のすべての系統はアフリカに始まるとされているからです。私たちの祖先は地域も時代も広域に散らばっていますが、ミトコンドリアDNAは、その母方の系統が、さらに遠い昔、アフリカにいた一人の女性に始まっていることを示しているのです。
……でもどうしてアフリカにいたことが分かるの? それは系統樹の枝が最も込み入っている部分、言い換えれば、ミトコンドリアDNAが最も多様な地域がアフリカにあるからだそうです。それだけでなく、Y染色体を含め、他の染色体の遺伝子も、アジアやヨーロッパに比べて、アフリカの人々の遺伝子のほうが多様なのだとか。また発見された現生人類の化石もそれを裏付けています。
 こうして太古の人類の足跡をたどる旅はアフリカから始まり、人類の足跡をたどってアジアへ、インドの海岸線を回り、オーストラリアへ。そしてヨーロッパを北上してシベリアを通過、人類が最後に行きついたといわれるアメリカ大陸までめぐります。
 基本的には化石や考古学的遺物をめぐる旅なのですが、未開の地での現地の人々の暮らしぶりのレポート(ときに狩猟採集民の狩りに同行し、ときに筏で海を渡り、ときにトナカイ遊牧民に寄り添う)も、なかなか自分では体験できない話ばかりで、わくわくしながら読み進めることが出来ました。
 何万年にもわたる人類の歴史のなかには、激しい気候変動も数回あり、それを乗り切るためにも人類は世界中に拡散していったようです。
 とても面白い科学読み物でした。読んでみてください☆
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