『図説 近代日本土木史』2018/7/5
土木学会 土木史研究委員会 (編集)

図面・写真・データ・年表類を用いて、近代土木の歴史を学べる本です。
教育現場での教材としても使えるように、多岐にわたる土木の各分野を、15回程度の講義の中でできるだけ網羅的に扱う目次構成としているそうで、内容(目次)は次の通りです。
01. 世界の中の近代日本土木
02. 鉄道 ── 東海道本線
03. 開拓 ── 北海道開拓
04. 河川 ── 淀川改修
05. 港湾 ── 横浜築港
06. 都市計画 ── 東京市区改正事業
07. 都市の再生 ── 琵琶湖疏水
08. 水道 ── 神戸水道
09. 干拓 ── 児島湾干拓
10. 郊外開発 ── 阪急と沿線開発
11. 道路 ── 国道1号
12. 災害からの復興 ── 帝都復興事業
13. 植民地経営 ──満州
14. 発電 ──黒部渓谷開発
付録 東北開発計画

分野ごとに代表するプロジェクトを選定して、その紹介を軸としながら近代土木の歴史が説明されていくので、説明が具体的で分かりやすく感じましたが、あまり技術的な面には深く踏み込んでいなかったので、技術的な特性についての解説がもう少し詳しいとさらに良かったような気がします。取り上げられたプロジェクトが歴史的に有意義なだけでなく、土木技術的にも有意義なものばかりだっただけに……。とは言ってもこれは「近代日本土木史」なので、そのプロジェクト(土木)の社会的な位置づけや、歴史・政治的背景を学ぶことが一番重要なのだとは思いますが。
個人的に重要だと思ったのは、「03. 開拓 ── 北海道開拓」で紹介されていた「コンクリートへの挑戦」。函館港と小樽港では、黎明期にあったコンクリート技術が試されたそうです。実はこれに先立つ横浜築港ではコンクリートの損壊があり、函館港などの築港を手掛ける広井勇さんは、これを詳しく調査して北海道に戻り実験を始めました。その1つが異なった配合(セメントや砂、砂利の比率)でテストピースを作り、海水・真水・空気の3つの環境にさらして放置した後に強度の違いを計る耐久実験だったそうです。その成果を生かして、日本で初めての外洋防波堤をコンクリートブロックで竣工させたのだとか。この耐久実験は広井さんの死後も事務所で続けられ、世界に例のない実験となったそうです(コンクリート百年耐久試験)。
また驚かされたのが、「08. 水道 ── 神戸水道」。日本には「神田上水」など江戸時代から水道があったことを知っていたので、「水道整備」はあって当たり前のような気がしていましたが(汗)、実は全国的な水道の整備が進んだのは明治以降で、それも「コレラ(などの感染症)対策」のためだったそうです。コレラの世界的流行により、1822年に日本もコレラが上陸してしまい、以降、1868年から1887年までのコレラ総患者数は412,570人(死亡273,816人)にも達したとか!(関東大震災の死者数は9万9,000人)凄まじい死亡数ですね! これを受けて衛生思想が広まっていき、まず横浜に初めて近代水道が誕生すると、その衛生効果が大きいことに人々は驚嘆し、以後日本各地で次々に水道布設が進められていったそうです。……そうだったんですか。知りませんでした。(ちなみに、日本で近代水道が誕生したのは1887(明治20)年でしたが、江戸時代には江戸の大部分の地域を潤す「神田上水」「玉川上水」などのローテク水道施設がすでにあり、当時としては世界最大のものだったそうです。)
さて、戦国時代の城の石垣などの見事さを見ても分かるように、日本には、昔からかなり進んだ土木技術力があったように思います。でもこの本は、「近代日本土木史」なので、主に明治期以降の土木の歴史が紹介されていました。それ以前の土木に関しても、簡単に紹介があると、もっと良かったのにとちょっと残念に思いましたが、そこまでは望み過ぎなのでしょう。あまり色々盛り込み過ぎると、焦点がぼけてしまうのかもしれません。
「近代日本土木史」を総合的に学べる本でした。土木に興味がある方は、ぜひ読んでみてください。