『すばらしい医学』2023/9/13
山本健人 (著)
外科医の山本さんが、医学5000年の歴史、人が病気になるしくみ、人体の驚異のメカニズム、薬やワクチンの発見をめぐるエピソード、人類を脅かす病との戦い、古代から凄まじい進歩を遂げた手術の歴史などを分かりやすく紹介してくれる本で、内容は次の通りです。
はじめに
第1章 あなたの体のひみつ
第2章 画期的な薬、精巧な人体
第3章 驚くべき外科医たち
第4章 すごい手術
第5章 人体を脅かすもの
おわりに
巻末付録 超圧縮医学の歴史
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「第1章 あなたの体のひみつ」の最初の話題は、「立ちくらみはなぜ起こるのか」。……その理由は、脳は心臓より高いところにあるのに、酸素不足にとても弱い臓器だから。立ちあがると血液は重力で足のほうに溜まろうとするのですが、自律神経がそれを察知して脳への血流が減らないよう即座に対処しているのです。ところが自律神経の働きが弱まっていると血圧のコントロールが鈍るので、立ちくらみが起こるのだとか。貧血や脱水、心臓の障害でも同様のことが起こるそうです。……なるほど。
こんな感じで、一般の人にとっても興味がある疑問や話題について、分かりやすく科学的に教えてくれるので、へー……とどんどん読み進められました。
また「食べ物の通り道に迂回路はない」では、人間の体は口から肛門まで一本道なので、どこかに障害が起きると全身に及んでしまうことが書いてありました。大腸がんや胃がんになると腫瘍などが障害になりますが、人体の道の交通維持・再開通させるためのツール「ステント」を使って道を広げるようです。また迂回路を作るバイパス手術という方法もあります。……外科手術でよく耳にする「ステント」や「バイパス手術」は、一本道を通すためにやっているんですね……。
ちなみにTVドラマでよくありがちな、「心電図がフラットになってから心臓マッサージを行う」ことは実際の現場では行われないそうです。あのような「心停止」にまで至ると、電気ショックは効果がないのだとか。
またTV ドラマだと、手術中に動脈から派手に出血すると「緊急事態!」として大慌てで対処していますが、動脈は止血しやすいので、むしろゆっくりわきあがる静脈からの出血の方が「緊急事態」だそうです。なぜなら静脈は壁が動脈より薄く、裂け目が広がりやすいからなのだとか。……外科医ならではの視点ですね。
面白かったのが、「新しく生まれた現代の「外傷」」。それらは、NintendinitisとWiitisというのですが……どこかで見たような(苦笑)。それもそのはず、Nintendinitisは「任天堂のテレビゲームをしすぎたことによる親指の腱の炎症」で、Wiitisはその一形態で、「Wiiのスポーツゲームによるスポーツ外傷」なのです。……うーん。私もどちらも好きですが……やっぱり、やり過ぎはいけませんね……。
続く「第2章 画期的な薬、精巧な人体」では、毒や化学兵器から薬が生まれたという事例をたくさん見ることが出来ました。毒や化学兵器は人体に強い作用を起こすので、その作用を逆に利用すると「薬」として使えることがあるんですね。それを考えると……「用法・用量」はちゃんと守らないといけませんね!
最近では次のような合成薬もあるようです。
「かつて多くのホルモンが動物や人の体から抽出され、構造と機能が解析されてきた。今では、その多くが製剤として人工的に合成できるようになっている。例えば、インスリンは膵臓から分泌されるホルモンだが、今や遺伝子組み換え技術により人工的に大量生産が可能となり、インスリン製剤として糖尿病の治療に利用されている。
製剤として人工的に化学合成することの利点は、大量生産が可能なことだけではない。人体で生成されるホルモンからヒントを得て、一部の構造を変化させ、特定の機能を強化したり、副作用を抑制したり、といった改良が可能になることも大きな利点だ。ホルモン製剤に、ホルモンそのもの以上のパワーを持たせることができるのだ。」
……人体の仕組みが詳しく解析されていくにつれて、より良い薬が作られていくんですね……今後の発展も期待したいと思います。
「第4章 すごい手術」では、腸の手術で使われている「縫う」と「切る」を同時に行える「自動縫合器」に驚かされました。無数のホチキス針のような金属で腸の壁を縫い閉じるそうです。この針は体内に残せるのだとか。
その他にもいろいろな機器が紹介されていました。今後もさらに洗練された手術ロボットの普及や発展が期待できるようです。
『すばらしい医学』……人体の仕組みから創薬や医学の歴史まで幅広く紹介してくれる本でした。一般向けの本のようで、医学の知識があまりなくても楽しく読むことができました。
「巻末付録 超圧縮医学の歴史」もありますし、医学の魅力をさらに知ることが出来る「読書案内」として10冊程度の本の紹介もあります。
読み物として医学の世界を楽しく知ることができる素晴らしい本なので、みなさんも、ぜひ読んでみてください。
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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