『北の大地に輝く命: 野生動物とともに』2024/4/22
柳川 久 (著)

 小さなエゾモモンガから大きなヒグマまで、そしてエゾリスなどの普通種からタンチョウなどの希少種まで、豊かな大地に暮らす野生動物の存在と人々の生活を両立させるためのさまざまな挑戦について語ってくれる本で、主な内容は次の通りです。
はじめに
第1章 野生動物の救護
1 はじまりは傷病鳥獣の救護から
2 野生動物はどんな原因で死んでいるか
第2章 ロードキルからロードエコロジーへ
1 ロードキル対策
2 ロードエコロジー対策
第3章 野生動物の通り道
1 防風林と動物
2 河畔林と動物
第4章 身近な隣人と付き合う
1 エゾモモンガ
2 エゾリス
第5章 増えた希少種と付き合う
1 タンチョウ
2 オジロワシ
第6章 大型動物と付き合う
1 エゾシカ
2 ヒグマ
第7章 野生動物とともに
1 これまで
2 これから
おわりに/引用文献
   *
「はじめに」には、次のように書いてありました。
「(前略)十勝地方を中心に、三十数年間にわたり豊かな大地に根づく野生の動物たちの存在と人の生活や農畜産業などの生産・流通を両立させるために、小はカエルから大はヒグマまで、数々の具体的な保全や管理に関する研究と対策を行ってきた。」
 そして第1章は、「野生動物の救護」。柳川さんは、傷ついた野生の鳥獣を保護し、治療などを施し、リハビリののち野生に復帰させる「野生消防鳥獣の保護」制度にも関わってきたそうです。
 例えばエゾモモンガの場合、その保護で最も多いのは、子育て中の母親が営巣している木が伐採され、親だけ逃げて、取り残された子が届けられるというケースなのだとか。そういう子を人工哺育もするのですが、なんとモモンガの場合は「里子」に出すことが可能で、その方が、子どもが生き延びる確率も高いそうです。モモンガの母親は、急に子どもが一匹増えても、その子を育ててくれるのだとか(笑)。でもそんなことが出来るのはモモンガだからで、コウモリの場合は、母親が里子を育ててくれないので、里子作戦は使えないそうです。
 また「第2章 ロードキルからロードエコロジーへ」では、北海道で頻繁に発生する野生動物の交通事故「ロードキル」への対策が紹介されていました。
 例えば、道路供用後も、その地のコウモリの生息を保全するために行った調査や対策では……
「(前略)種類となんのためにこの場所にいるのか、がわかった段階でどんな保全対策をとればよいのかは決まってくる。この対策にかかわったことから、その場所で確認された動物がなんらかの改変後もそこで生きてゆくためには、その動物がいた理由をなくさなければよい、というあたりまえといえばあたりまえの理屈でものごとを考えるようになっていた。」
 ……とのことで、次のように「移」「食」「住」を確保したのだとか。
・「移」の確保:道路で分断される池の間のコウモリ類の移動(道路の下にカルバートを通した)
・「食」の確保:失われる水場の面積を最小限にするとともに、人工池を道路に沿って掘る
・「住」の確保:樹洞のある樹木は失われずに済んだが、代替用の巣箱も設けた
 ……このようなロードキル対策用として、その生物が道路を横断できるさまざまな仕組みを作ってあげてきたようで、カエルの場合は「歩道の段差をスロープにする対策」が行われたそうです。また「ヒグマは通すが、エゾシカは通れない」ような構造のカルバートを作ることも出来るようです。
 続く「第3章 野生動物の通り道」では、野生生物を助けるだけではなく、増えすぎないように「管理」することの重要性も、次のように書いてありました。
「野生動物の管理という観点からは、河畔林や防風林の存在は、生物多様性の維持というプラス面だけでなく、害獣や移入種・外来種の通り道であるというマイナス面の評価もしなければいけない。それらをトータルで把握して、河畔林や防風林の管理をどうしていくかを考えてゆく必要があると思う。」
 そしてヒグマやエゾシカによる農業被害に対しては……
「現在のところ、これらの被害の対策としては、有害鳥獣駆除による個体管理を行いつつ、防御策や電牧柵などによって畑などへの侵入を防ぐことがもっとも効果的であると考えられている。」
 ……だそうです。
『北の大地に輝く命: 野生動物とともに』……「野生動物も人間も、被害者にも加害者にもならず、ともに生きていくため」の試みについて、写真やイラストとともに具体的に解説してくれる本でした。「第4章 身近な隣人と付き合う」では、エゾモモンガやエゾリスなどの情報や可愛い写真を見ることもできます。北海道ならではの情報に興味津々でした。みなさんも、ぜひ読んでみてください☆
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